音楽鑑賞履歴(2019年6月) No.1327~1332

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
6枚。
今回はPhoenix特集ですね。一応、デビュー時から知ってるバンドですが、ある時期から離れてしまったのでじっくり聞くのは初めて。おととし出た新作もばっちり買ってあります。聞けるのはいつになるかわかりませんが。
それはそうと、世間は梅雨入りして、じめついた天気が続いています。聴く音楽もなにかしらアンニュイなものを聞いてしまいがちですね。夏の晴れやかな陽気が早く来るといいのですが、来たら来たで今度は暑さに滅入る日々が続きそうなのもあって、どっちがいいんだろうと思わなくも。季節の趣を感じられるのはいいことではありますが。
というわけで以下より感想です。


イッツ・ネヴァー・ビーン・ライク・ザット

イッツ・ネヴァー・ビーン・ライク・ザット

06年発表3rd。垢抜けた印象のあるアルバムで一皮剥けたサウンドを提示している。前作のシックな印象から一転して、ポップな華やかさが映える内容となっており、よりギターポップらしい感触に傾倒している。1stで見られたごった煮感も整理され、洗練されている印象が強く残る。
ギターが前面に出ていることからも、インディロックっぽさが強くなっているとも言えるし、ギターの重層的な重ね方はストロークス辺りを髣髴とさせるアートスクール系のギターポップといった趣。確実に違うのはリゾート的な優雅というかフランスのお国柄らしい、エレガントな感覚が漂っている事か。
楽曲にせよ淡くカラフルな印象もあり、柔らかさと儚く溶ける砂糖菓子のようなポップネスが特徴で、洒脱したサウンドが鳴り響いている。前作、前々作を踏まえて、バンドサウンドを洗練させた結果、音楽性が確立された大躍進の一枚ではないかと思う。37分というコンパクトな内容も聞きやすい一枚。


Architecture

Architecture

81年発表3rd。一般に「エノラ・ゲイの悲劇」のヒットで知られるエレポップユニットだが、その彼らがスターダムに上った後に送り出した作品。ポップさを抑えて、自身の音楽性を表出させており、アーティスティックな一面を覗かせている。クラフトワークフォロワーの彼らが一歩踏み出した音を繰り広げる
リリカルな退廃美を押し出しており、その辺は同時代のニューロマンティックスらしい耽美な趣を感じさせる内容となっている。長尺曲などにも挑戦しており、セールス的に成功したことに安住しない攻めの姿勢が窺えるのも頼もしい。そういう点では一番華がある時に躊躇うことなく、音楽志向を追求した作品だ
翳りのあるサウンドではあるが、シンセサウンドの煌びやかさが一種の神々しさを帯びてもおり、ゴシック的なサウンドである一方で、宗教的な清新さや爽やかさが残る。他のエレポップユニットも一線を画す、メロディアスな叙情が実験精神の高さとともに結実した傑作だろう。その陶酔美に浸っていたい。


Wolfgang Amadeus Phoenix

Wolfgang Amadeus Phoenix

09年発表4th。初の自主レーベルからのリリースにして2010年の第52回グラミー賞でベスト・オルタナティヴ・ミュージック・アルバムを受賞した作品。事実、今までの彼らの集大成的なアルバムといっても過言ではない内容で、最高傑作というに相応しいものとなっている。
1stのインディーロックらしいキッチュさ、2ndの緻密な構築性、3rdのエネルギッシュな勢いがすべて統合され、バンドサウンドとしてロックとエレクトロの融合が最良の形としてポップミュージックに昇華されている。前作から感じさせているストロークスっぽいアートスクール系ギターロックもうまく咀嚼。
盤を重ねるごとにバンドサウンドの洗練と拡張を積み上げていった結果、最良の形で送り出すことに成功しているだけでも凄いが、一見わかりやすくポップに仕立てられているメロディが非常に奥行きのあるものであることも見逃せない。ミルフィーユのように丹念に織り込まれたメロディがとてもキャッチーだ
日本盤には4曲ほどボーナストラックとしてホーム・デモが収録されているが、これが人の演奏かと思うほど、どう演奏しているのかが分からなくて驚いた。そういう点からもバンドマジックとバンドのピークタイムが合致した幸福な一枚という印象か。1stから追いかけている人間には感慨深い作品だろう。


Bankrupt!

Bankrupt!

13年発表5th。グラミー賞受賞後の一作。彼らにとっては新境地を押し出した内容となっており、これまでの綿密に構築させたポップミュージックを当時のEDMブームの隆盛に伴って、フロア仕様に仕立てた一枚だろうと思う。一曲目から音圧高めの高低音のメリハリがバリバリに利いた音と化している。
今までの編み込まれたソフトなメロディを主体としていたバンドサウンドが、シンセのどギツいヴィヴィットな色彩によって豹変しているため、従来のサウンドを期待しているとはっきりと好き嫌いが分かれる内容と言える。実際、メロディよりドラムを初めとしたビートの起伏が強調されているのが目を引く。
もともとエレクトロなサウンドとバンドサウンドの融合を特色としていたグループなのでバンドサウンドをエレクトロの鋭利な音色で装飾する方向性も意外となじんだものとなっていて興味深い。むしろフロア仕様となったことでディスコグラフの中でも特に「ノレる」作品になっていると感じる。
今までの経験を踏まえてもいるので彼らの魅力が損なわれたわけではなく、きちんとトレンドをバンドの音楽性に取り込めているのが頼もしいほど。またデラックスエディションの2枚目も興味深い。本作のドキュメント的な内容だが全71曲の断片ながらアイディアと可能性が詰め込まれていて聞き飽きない。
様々なアイディアと試行錯誤によって、本作が精製されているわけだが、その出し惜しみのなさが、アルバムの出来にもきっちり反映されているのが感じ取られるし、後のトレンドを髣髴とさせる音も潜んでいて、その取捨選択も面白い。そういった点では成果と過程を知ることの出来る良エディションだろう。
もちろん、作品としても大ヒットに安住せずに可能性を追求する姿勢を感じる、意欲的な好盤であることは疑いようもないし、更なる進化を感じさせる一枚だったかと。


All the Woo in the World

All the Woo in the World

78年発表1st。かのP-Funkサウンドの中核的人物、バーニー・ウォーレルのソロ初作。ほとんどの曲で、P-FUNK軍団のドン、ジョージ・クリントンとの共作となっており、アルバムプロデュースも共同となっているが、P-Funk色はあっさり気味で、ストレートなファンクサウンドという印象が強い。
むしろバーニーのボーカルとピアノがかなりフィーチャーされており、P-FUNKメンバーも多数参加しているのもあって、その高い演奏力が素のままで受け取れるというだけでもかなり興味深いのではないかと思う。アクの強さがないだけ、純度の高いファンクが聞けるというのもありがたい。
とにかくタイトでしなやかなビートに、ホーンやピアノを始め、バンドの演奏が絡み合うだけで極上というか。ハマるべき所でかっちりハマッていく演奏の心地よさが堪らない感じ。もしかするとP-Funkの諸作品よりも分かり易く、彼らの音楽性が伝わる一枚かもしれない。ピアノとホーンとベースがカッコいい


The Invisible Invasion

The Invisible Invasion

・05年発表3rd。2.5thという形のミニアルバムを経て、送り出されたアルバム。当時はクラウトロックの影響が感じられる、みたいな評があったように思うけど、今聞くと1stの猥雑さをより整えて、2ndで見せたトラッディーな歌ものを汲んだコクのあるサイケサウンドでまとめてきた印象を受ける作品。
港町であるリヴァプール出身というのもあるのか、レトロな海賊サウンドというか、侘びた味わいのフォーキーさや、あるいはそれこそラヴクラフトのような怪奇・幻想を喚起するサウンドが繰り広げられている。うらびれた木造の海賊酒場で朗々と歌いこまれる幽霊の歌のようなイメージが頭に浮かぶ。
垢抜けない民間伝承的なゴシックサウンドといった趣で、メンバーの年の割には枯れた味わいのトラッドな感触などは次作以降大きくクローズアップされていく。音響の処理の仕方など伝奇的な色合いもこの段階では強いが、この方向性がより洗練されていく形で発展していくことを考えれば過渡期的な一枚か。