音楽鑑賞履歴(2019年8月) No.1334~1340

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
今回は6枚。その内、5枚は全てバウハウス
というわけで、8月はUKゴシックロックのパイオニアの一角、バウハウス特集でした。


5 Albums Box Set

5 Albums Box Set

  • アーティスト:Bauhaus
  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: CD


13年に出た、上記のCD-BOXを一枚ずつ聞いたのが今回のレヴューになります。まあ夏に聞く、ゴシックロックも乙なものでなかなか味わい深いものだったかと。バウハウス自体も短い活動期間の中で目まぐるしくサウンドの変遷があるグループなので、聞いていて退屈はしなかったですね。
今年の夏は昨年に比べると極端に暑くなく、「適度に」暑い夏でここ何年かの中では過ごしやすい夏だったかなあと。この位でいいんだけど、来年はそうも行かないんだろうなと思うと、早くも気が滅入ってきますね。
というわけで以下より感想です。おまけといっては何ですが、この記事の最後に今年の夏にSpotifyで聞いた音楽のプレイリストも張っておきますので、よろしければお聞きください。




In the Flat Field

In the Flat Field

  • アーティスト:Bauhaus
  • 発売日: 2007/05/21
  • メディア: CD
80年発表1st。ゴシックロックの先駆的バンドでもあるバウハウスの初作。パンクのノリでNWの耽美で退廃的なサウンドというか、ポストパンクの破壊衝動も重なってダークでグラムやそれ以前のショックロック的な悪趣味さを兼ね備えたホラー映画的な趣を感じる作風は、処女作ながら既に確立されている。
開幕から極めてロックンロールマナーに即した展開に始まり、そこから一気にバンド独特の作風に聞くものを引き込んでいく熱気は当時の音楽シーンの空気を伝えてくるものだろう。本作はその点で言うならば、非常に荒削りで、混ざりきっていない音楽要素のゴロっとした感覚が非常に興味深い。
パンク、ポストパンク、NWといったジャンルの隙間を縫うように、サイケとは異なる内的な陶酔感と焦燥感を伴った感情の渇きが怪奇的に響き渡る。そのラフな作風が次第に完成に近づいていく過程をドキュメントしたような内容にもなっていて、ラストナンバーの「Nerves」はアルバムの中でも一線を画す出来
作品そのものがバンドの荒削りな魅力と可能性を提示しており、その過程の中で音楽性が一段階上がる様子が克明に捉えられていて、それだけでも価値のある一作だし、ロック史の中に新たな楔を打った点でも意義あるアルバムのひとつだと思う。若々しくエネルギッシュな船出を切った一枚。



Mask

Mask

  • アーティスト:Bauhaus
  • 発売日: 2007/05/21
  • メディア: CD
81年発表2nd。一般に代表作。ゴスそのままにNW、ポストパンク色が色濃くなった一枚。新機軸のポストパンク的な痙攣ファンクビートの肉感が良くも悪くも当時らしい音で、前作に見られた彼ら特有の退廃美的なゴシックさとは水と油のようにも感じなくない。反面、そのおかげで本作はかなりポップな響き。
ただ前作のような暗黒ゴシックサウンドを期待すると、肩透かしかもしれない。パンク、NW、ポストパンクという時代の波を考えると本作で導入されているダンサブルな要素は後追い感も否めず、彼ららしい「色」も感じなくはないが、楽曲の独自性はそこまで感じられずといった所。悪くはないのだが。
やはり現代の耳で聞くとゴシック、怪奇色の強い楽曲の方が魅力的に聞こえる。形に嵌ることなく、新しいものを追求する姿勢はよく分かるが、流石に欲目を出しすぎたようにも感じられ、バンドアディテュードとして「ブレた」ようにも感じてしまう、悩ましい作品。聞きやすい良盤には違いないのだが。



Sky's Gone Out

Sky's Gone Out

  • アーティスト:Bauhaus
  • 発売日: 2001/01/01
  • メディア: CD
82年発表3rd。前作からポップ要素を廃し、サウンドの凶暴さを押し出した一枚。バンドメンバーの間に不協和音が鳴り響き始めている最中で製作されたためか、一触即発の緊張感とテンションの高い演奏によって、崩壊寸前スレスレの尖がったバランスの上で成り立った内容で切れ味で言えば、一番鋭い作品。
冒頭のブライアン・イーノのカバーソングからして、触ったら、真っ二つに一刀両断されそうな気迫に満ちていて、剥き身の危うさがかとなく漂っている印象すらある。その破滅的なサウンドは、ゴスで表されるような退廃美に肉薄している印象もある。ただ怪奇色には薄く、そこばかりは残念か。
反面、実験的な前衛要素があったり、アイディアがとっ散らかった楽曲もあったりで、大衆性が損なわれて、アルバムとしての纏まりの良さには欠けるが、バンドのコンディションが研ぎ澄まされた勢いを感じさせる。一点突破の攻撃性が強烈な一枚ではないかと。前作の迷いがないだけでも高く評価したい。



Burning From the Inside

Burning From the Inside

  • アーティスト:Bauhaus
  • 発売日: 1989/10/20
  • メディア: CD

83年発表4th。後の再結成を抜きすれば、バンド内不協和音が決定的になった最終作。Voのピーター・マーフィーとその他の三人の方向性の違いが盤に表れているような印象も持つ。しかし、出来が悪いわけではなく、前作の異様な緊張感から打って変わり、穏やかさも感じられるが有終の美を飾るものではない
というのも、ピーター・マーフィーが病気によるレコーディングの一時不参加が残りのメンバーの転機となり、ピーター抜きでレコーディングがスムーズに進んだ事がバンドの亀裂をさらに深めてしまう。この為、ピーター以外のメンバーがリードVoを取る楽曲も数曲収録されている。
そういった経緯があってか、内容は従来の漆黒なゴスサウンドよりも後にラブ&ロケッツを結成することとなるメンバーの萌芽が目立つため、アルバムとしてはやや散漫な出来かもしれない。楽曲単位だとタイトルトラックなど野心的なものもあるがラストナンバーが「Hope」なのはなんとも皮肉。
解散・空中分解の多いパンク・NWバンドのひとつとして、短命に終わってしまうことになるが提示した音楽スタイルの数々は後進へと大いに影響を与えているのも確かで、それらのオリジネイターのひとつとして刻まれることは間違いない。しかし、その可能性を完成することなく、終焉を迎えたのは惜しいか
どちらにせよ、ピーター・マーフィーと残りのメンバーが各々の「希望」を垣間見たことで、袂を分かったのは諧謔的ともいえる。ゴスというジャンルにとらわれず、多様な魅力のあるバンドでもあるだろう。本作は次に進む「落ち着き」が随所に感じられる一枚だった。



ONE MORE YMO

ONE MORE YMO

・00年発表編集盤。既発音源と未発表音源で構成されたYMOのライヴベストアルバム。既存で入手困難なライヴ編集盤からもいくつか抜粋されている一方で音源にリミックスをかけたものもいくつか収録されている。スタジオ盤での演奏よりもある種人らしい、ライヴならではの演奏のズレや遊びが面白い。
曰く付のスネークマンショー武道館ライヴ出演時の音源や、「BGM」「テクノデリック」期のウィンターライヴの未発表音源などが本盤の目玉といったところだろう。基本的に演奏力の高いユニットであるので、ライヴ演奏も不安定どころか、スタジオ録音のあまり変わらない演奏なのには驚かざるを得ないか。
しかし、その中でも所変われば演奏も変わるを地で行くように、その時々のブレやテンションの高さや、アドリヴアレンジが事も無げに入ってくるのがなにより楽曲の「ナマもの」感を滲み出させているように思う。ライヴ音源のほうが肉体感のある演奏だということがYMOのもうひとつの醍醐味だろう。
その点ではYMOはライヴバンドであり、生身のビートと機械的なシンセの音が混ざり合ってグルーヴする、不思議なバンドでもあったことが伺えるかと。同時それらは中毒性があり、今に至るまで多くの人を引き付けて話さない要因でもあるのかもしれない。YMOのもうひとつの側面を追ったベスト盤だろう。



Bauhaus / Singles


13年発表編集盤。13年に出たリマスターCDBOX5枚のうちの一枚で彼らのリリースしたシングル曲をコンパイルしたもの。彼らの代表曲でもあり、1stシングルである「Bela Lugosi's Dead」はオリジナルではなくTomb Rider Mixが収められているが、シングルA面曲、B面曲をほぼ網羅した内容で充実してる。
これを聞くと、彼らの魅力が乱反射していることがよくわかる。グラムロックフォロワーからのロックンロールリバイバルに始まり、時代に寄り添ったレゲエ、ダブ処理を感じさせるポストパンクらしさや、耽美的かつ怪奇的なゴシックロック、ソリッドなNWサウンドなど、アルバムだけで見えない側面が窺える。
やはりシングル集だけあって、バンドサウンドのキワを集めたものである以上、彼らの先鋭的な部分が抽出されており、試行錯誤の中でバンドサウンドを見極め、同時にその過程における熱気が感じられる内容といえるだろう。アルバム以上にバンドの実像に迫った作品集だろう。興味深く聞けた。



【おまけ・2019年夏のプレイリスト】