音楽鑑賞履歴(2019年5月) No.1316~1326

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
令和に元号が変わって、最初の月の音楽鑑賞履歴です。
11枚。
ちょっと復調したかなという感じですね。色々と趣味の兼ね合いがあって、なかなか聞けない時があったものですから。ジャンルもフィリー・ソウル、アニソン、ポストパンク、クラシックロック、テクノといった風に雑多に聞けた感じでしたね。もうちょっと数聞きたい感じもしますが、こんなもので。まあ、Spotifyを使い出してから合間に聞けるようになってますが、やっぱりちゃんと聞きたいですし。そんな感じでのらりくらりと行きたいですね。
というわけで以下より感想です。


72年発表5th。大ヒットした同年発表の前作からわずか10ヵ月後に発表されたアルバム。ブレイクした勢いそのままに、アル・グリーンから搾り出される儚げなファルセットボイスとそのHi-サウンドの甘美な響きが絡みつくスウィートな内容。極めて、「歌声」にフォーカスしている一方で演奏の下支えが心強い
どうしてもファルセットに目にいきがちだが、サザンソウルのマナーに忠実なグルーヴのディープさとキレのあるホーン・セクションがアル・グリーンのくぐもった様な篭りがちにうねる歌声を味わい深くさせる。歌と演奏の絡み付き方が堪らなく粘っこい。粘度の強い蜂蜜を味わっている濃厚さが印象的だ。
独特な歌声が高く伸び上がるのも、演奏の天上感があってこそで、Hiサウンドのタメと開放感は全て、歌唱へと貢献しているものだと感じられる。非常に甘美で濃密な愛の世界が展開されているが、演奏、歌唱ともに当時の飛ぶ鳥を落とす勢いを感じる好盤ではないかと。スウィートソウル入門としてもオススメ


72年発表4th。アル・グリーンというシンガーとHiサウンドを一躍世に知らしめた出世作。1曲目からして、ソウル・クラシックであるアルバムタイトルトラックが来て、アルバムの存在感を強めているのが目を引く。内容はスウィートさとは裏腹に、かなりタイトでアーシーなサウンドが続くが面白い。
Hiサウンドを育んだメンフィスがアメリカ南部の地であることからも、本作のサウンドは非常にサザンソウルらしいディープな泥臭さがあり、タイトでヘヴィなビートにホーンの金属音が切り込んでくる。アル・グリーンの歌も以降のファルセット多用というよりは、そのアーシーな演奏に寄り添ったものである
粘っこいだがしつこくない、時折ブルージーさを感じる演奏に、アル・グリーンは朴訥に朗々と歌い上げる。この段階ではファルセットもそこまで多用しておらず、男臭いが同時にナイーヴな印象も受ける、既に老成した味わい深いヴォーカライズがやはり魅力的だ。
後の作品に比べると、サウンドの濃密さには及ばないが、シンプルかつ粗野な引き締まった演奏と歌唱が返って、シンガーの魅力と実力を引き出している名実ともに名盤なのではないだろうか。実際、聞いてみると意外に奥の深いアルバムだ。ソウルを聞くなら一度は聞いておきたい歴史的な一枚かと。


Candy☆Boy(DVD付)

Candy☆Boy(DVD付)

07年発表3rdSG。韓国人歌手MEILINの楽曲、という以上に「アニメ2.0」と呼ばれたWebアニメ企画「Candy☆Boy」の最初の楽曲としての認知度が高いと思われる。DVD同根版には0話ともいえる短編アニメ(ニコニコ動画にもアップロードされているはず)とアニメ映像を使用したMVが収録されている。
そういった出自の楽曲ではあるが、肝心の内容といえば2step調のリズムが目立つK-POPという印象で、当時としても紋切り型のサウンドであることは否めないか。そういう点では00年代後半初頭の雰囲気が蘇ってくる楽曲でもある。アニメと合わせてのパッケージングという向きが強い。
カップリングに矢井田瞳「My Sweet Darlin’」がなぜかラップパートを挿入されたカバーで収録。こっちも、音圧高めの当時らしいアレンジ。いずれにせよ、そこまで目新しい感じではないが、アニメ「Candy☆Boy」のファンならDVDソフトに収録されていないエピソードが付いてくるので持っていて損はないかと


Bring up・・・LOVE(夏服仕様ジャケット)

Bring up・・・LOVE(夏服仕様ジャケット)

Bring up・・・LOVE(冬服仕様ジャケット)

Bring up・・・LOVE(冬服仕様ジャケット)

08年発表主題歌集。ニコニコ動画で配信されたWebショートアニメ「Candy☆Boy」の主題歌集。楽曲プロデュースが「少女革命ウテナ」のOP曲「輪廻-revolution-」の作編曲をしている矢吹俊郎によるものとなっている。四つ打ちハウステクノに煌びやかな楽器の装飾音が散りばめられ、劇的に盛り上げる。
コーラスのゴスペルっぽい響きなどもあって、祝祭めいた開放感もあるのも拍車を掛けており、90年代の小室サウンドをも彷彿とさせるが、底地に見え隠れするブラックミュージックの要素が時代に囚われないグルーヴを出しているように思う。この辺り、素地がしっかりしているから、普遍さがあるのだろう。
ちなみにジャケットが夏服と冬服でカップリングの収録楽曲が違う上、2バージョンともにDVD同根版(収録内容はほぼ同じ)が存在する。こちらもDVDには本編DVD未収録エピソードが収録されているため、作品のファンはぜひ揃えておきたい。どちらにしても作品に寄り添った良い楽曲集という印象だ。
以下がDVD同梱版のリンク。
Candyboy主題歌(DVD付)

Candyboy主題歌(DVD付)

Bring up・・・LOVE(冬服仕様ジャケット)(DVD付)

Bring up・・・LOVE(冬服仕様ジャケット)(DVD付)


80年発表2nd。度重なる延期と発売中止の末にようやく再発売されたポストパンクの代表格、ザ・ポップ・グループの二作目。なのだけど、版権問題の紆余曲折があって、元々収録されていたラストポエッツの参加した「One Out of Many」から当時のシングル曲「We Are All Prostitutes」に差し替えられている
この為、リリース当初の内容が完全収録とはなっていないのが惜しいところだが、アーティストの意向としては今回のリイシューこそが「アルバムの完全な形」ということだそうなので、これが決定盤ということなのだろうと思う。というわけで今回は16年再発盤のレヴューとしたい。
さて肝心の内容は前作に施されていたダブ処理が鳴りを潜め、演奏の肉体性と凶暴性が増大している。とにかく「怒り」に満ちたサウンドで、甘ったるい感傷や夢見がちなロマンティックさは一切皆無。録音当時、バンドはほぼ解体状態で、録音もメンバーの衝突が茶飯事であった事もあり緊張感がスゴい。
まさしく抜き身の怒りによって、奏でられる音楽はファンクを通り越して、アフリカンリズムにまで接近し、その躍動感によって肉体的な暴力性を剥きだしている。そこに当時の英国の社会事情も絡み、歌詞は社会・政治批判を多分に含んだ扇動的なもので、演奏・歌詞の両方から「怒り」が溢れ出す。
ファンク、アフリカンミュージックにケルトやNWサウンド、非ロックのありとあらゆるものが渾然一体となって、ポストパンクの塊となって繰り出されるサウンドは非常に濃度が濃いもので当時20歳前後の若者たちに満ちていた鬱屈した感情がぶち撒かれている点だけでも盤として輝く理由として申し分ない。
程なくしてバンドは3rdアルバムの完成を待たず解散。メンバーはそれぞれ活動を続けていくが、その後の活動で繰り広げられる要素が本作には目一杯詰め込まれている。未分化ゆえの可能性が詰まっていたといっても過言ではないが、もはや再現不可能な青春という感情の無軌道な爆発が記録された一枚だろう


ザ・ゲーム

ザ・ゲーム

・80年発表9th。彼らのアルバムでは英米の両方で1位を獲った作品として知られる。前作が70年代を総括したアルバムだと考えるなら、本作は80年代の幕開けを象徴するものだろう。既に導入しつつあったが本作でついに「ノー・シンセサイザー」の表記が消え、冒頭から鳴り響いている。
内容も当時のパンク/NWの波を受け、メジャー級のバンドがその文脈で自分たちの音楽を表現するとどうなるか、というのを地で行くものとなっている。大ヒットした3や5はそういったファンクを経由したポストパンク後のダンスミュージックやロックリヴァイバルとしてのプレスリーだったのではないかと。
70年代の全盛期のような大作主義は影形もないが、クイーンらしい華やかなポップスは席巻していた新しい息吹をまとって、刷新されていたと思うのだが、3がヒットした手応えでよりブラックミュージック、ダンスミュージックへと舵を切ってしまったのは勇み足だったのかもしれない。
もちろん手応えがあったからに他ならないのだが、やはり受けた理由は時代の波を上手く取り入れられたからであって、少なくともダンスミュージックだったからというわけではなさそうだ。無論次作も出来は悪くないのだが、その商業的失敗の遠因には本作が売れた事による認識の誤りがあったのは疑いない。
そういう点では罪作りなアルバムでもあるが、それでもこの作品の軽すぎず重すぎずのポップな質感と蛍光灯のような明快な雰囲気はやはり魅力であると思うし、彼らのポジティヴがよく表れた一枚だろう。彼らはこのアルバムの成功とともに前途多難な80年代の一歩を踏み出したのだった。


ライヴ・フロム・ザ・ショーボート

ライヴ・フロム・ザ・ショーボート

76年録音盤。フィル・ウッズアメリメリーランド州ライヴハウス、ショーボート・ラウンジにて76年11月に録音したライヴ盤。以前は収録曲を削っていたバージョンが出ていたが今回はライヴの内容を完全収録した二枚組アルバムとなっている。演奏の方は非常に熱気のあるもの。
ライヴパフォーマーとして定評のあるフィル・ウッズのサックスはエネルギッシュかつ伸びやかにブロウする。当時の充実振りが伝わってくる演奏で、ソロパートになると文字通りアルトサックスの野太いフレーズをこれでもかと、自由闊達に吹きまくるウッズの姿が目に見えてきそうなほどだ。
ウッズの脇を支えるメンバーも気を吐く。70年代後半というフュージョン全盛時代というのもあってか、全体にシャープで硬質なサウンドで聞き心地も非常にクリアなトーン。その分、音の粒立ちがよく、サックスなどの音とともにリズムの躍動感が素晴らしい。非常にタイトなビートによって演奏が際立つ。
圧巻はDisc2に収録の21分超の「ブラジリアン・アフェア」。縦横無尽に各楽器が雄弁に語り合う光景にはただただ圧巻というほかない。約二時間の内容があっという間に聞けてしまうベストパフォーマンスといっていい演奏が楽しい一枚。ジャズにおける名演の一つかと。
このライヴの翌年、フィル・ウッズビリー・ジョエルの大ヒット曲「素顔のまま」のサックスソロで客演することとなる。そういう点からも円熟味の増した芳醇な演奏とも言えるでしょう。


Drukqs [帯解説 / 2CD / 国内盤] (BRC557)

Drukqs [帯解説 / 2CD / 国内盤] (BRC557)

01年発表5th。テクノ界の奇才、リチャード・D・ジェームスのもっと有名な名義であるエイフェックス・ツインの00年代にリリースした唯一のアルバムにして二枚組の大作。元々アンビエントテクノをリリースする名義だったのもあり、それらをメインにごった煮な内容となっている。
エリック・サティジョン・ケージに影響受けた自動演奏ピアノ楽曲や、エイフェックス正調であるコーンウォールサウンド、奇妙な電子音が飛び交うリズムクレイジーな楽曲、アブストラクトテクノなどなど前衛スレスレの所で聞かせるテクノ=IDMを縦横無尽に鳴り響かせている。
そういったリチャードの音楽性がごった煮されている中で、全体のトーンは瞑想的でもあり、自然とアンビエントな陶酔感に満ちたものとなっていて、身を委ねて聞いていると何かか覚醒するような恍惚も感じられる。個人的にはその中でもアコースティックな静謐さを秘めたピアノ曲などが興味深く聴けた。
ドラッギーな感覚というよりは感情の澱が積もっていく中でなにかしらの意味が導き出されそうなインナーミュージック然としたアルバムだと思う。なんというか宗教音楽などにニュアンスが近いかもしれないが、それをクドさなく軽やかにかつ狂気的に聞かせる作品かと。奇才という相応しい内容だった。


Orbital 2

Orbital 2

93年発表2nd。80年代末~90年代初頭のアシッドハウスに代表されるハートノル兄弟によるテクノユニット。セカンド・サマー・オブ・ラブアシッドハウスムーブメントの流れを汲んだ、ドラッギーでトランシーなハウステクノが展開される、当時の王道的なサウンドが聞けるのが特色。
現在のテクノ・エレクトロシーンの音に比べると、モコモコとした音像と例えれば画素の荒い、アナログな肌触りが残るキックとメロディ、ミックス感がいかにも人間くさい印象を与える。しかしそれが悪いというよりも、隙間の多いシンプルな構成だからこそ、プリミティヴにノレる作りとなっているのが良い
この時期はまだまだドラッグ文化とも結びつきが強いためか、トラックもサイケな質感が多いの特徴だ。この時期のテクノに多用されるシタールの幻惑的な響きやジャミロクワイとも呼応するディジャリドゥの音など、キメた時にトリップを促すような音が盛り込まれているもの時代の雰囲気を感じさせる部分だ
音自体は今の耳には若干古臭くもあるが、現在に繋がるテクノシーンのベーシックな部分を形成したアルバムの一つでもあると思う。ここから日本のアーティスト、たとえば電気グルーヴなどに辿りつけるのであるから、テクノ好きなら一度は触れておいても損はない名盤だろう。シンプルゆえに響くものもある


ドラムジラ

ドラムジラ

96年発表日本独自編集盤。アシッド・テクノ・シーンでその名を馳せたDJ、ティム・テイラーとダン・ザマーニによるプロジェクトユニットの楽曲を編纂したアルバム。リミックス違いを含む全10曲、すべてがフロア仕様のキラーチューンばかりのアシッド・ハウス・アルバムとなっている。
メロディや鳴り物はほぼ最低限に、トライバルなアフリカンリズムと四つ打ちキックのビートを中心に据えた、極めて潔い、なおかつプリミティヴにリズムの快楽を伝えてくる楽曲がアルバム全編に渡って、暴力的に鳴り響く内容となっており、フロアではない場所で聞いていると、自然にリズムを取りたくなる
フロアでアガって踊り尽くすのにメロディなどいらない、心駆り立てるビートがあればよい、というとてもストイックにアシッドハウスに向き合いながらも、オーディエンスのことを常に意識した作りになっているのがなにより本作を惹きつける魅力なのではないかと思う。ビートだけでご飯三杯は美味しい良盤


以下はレヴューの該当盤ではないが、近しい収録内容の編集盤として参考までに掲載しておきます。