JAGATARA「裸の王様」「ニセ予言者ども」盤違い解説

今回は久々に音楽関連の記事です


www.110107.com



2023年1月25日に80年代から90年代初頭まで活躍した国産アフロファンクバンド、JAGATARA暗黒大陸じゃがたら、財団法人じゃがたら、とも)のオリジナルアルバムが久保田真琴リマスターでリイシューされました。

ソニーミュージック公式HPの特設サイト(上記リンク)ではアナウンスされていますが今回の「裸の王様」「ニセ予言者ども」のリマスターはソース音源が「89年初CD化時のミックスマスター」を使用したリマスターです。各種音楽サイト、ショップサイトでこの情報が明記されていませんが、いわゆる初出音源のミックスマスターではありません

二作ともこれまでにもリイシューが何度かなされてきたタイトルではあるのですが色々バージョン違いの変遷があるので、今回はそれについて解説します。というより、23年リマスターが89年の初CD化時のミックス音源であることでさらに盤違いのバージョンが増えてしまったのが今回の記事を書くに至った経緯です。


hsysblog.jugem.jp
hsysblog.jugem.jp


既に二作の違いを語っているhsysさんという方のブログ記事(上記リンク二件)があるのですが、ここにある情報を踏まえて、2023年のリマスター盤も加えた2023年現在の「裸の王様」と「ニセ予言者ども」の盤違いをまとめておきたい、というのが今回の記事の主旨です。実際追ってみると結構ややこしいので、これから探す人の参考になればいいなという所もありますね。

では早速やっていきたいと思います。


『裸の王様』


まずは『裸の王様』です。JAGATARAといえばこの作品、と言って過言でない代表作ですね。盤違いの種類は以下の通りになります。

1. オリジナルアナログ盤(1987)
2. 最初のCD化(1989)→オリジナル盤とは異なるミックスでリリース
3. CDリマスター(1998) →2のリマスター盤
4. オリジナルアナログミックスのCDリマスター(2007)
5. アナログ盤リイシュー(2020)→4のレコードリイシュー
6. 久保田真琴リマスター(2023)→2のミックスを使用した最新リマスター NEW!


太字で示した箇所が一応今回のネックですね。
1から2、つまりレコードからCDとして発売されるときに、音源のミックスをアスワドなどのレコーディングエンジニアで知られるゴドウィン・ロギーに担当させています。

ゴドウィンミックスと呼ばれている2のヴァージョンでは、ボーカリストでバンドの主要人物であった江戸アケミの意向により収録曲の「裸の王様」「もうがまんできない」の2曲の歌詞が一部変更、それに伴ってボーカルの再録音が行われています。歌詞変更については以下の通り。

「裸の王様」:https://j-lyric.net/artist/a050539/l017326.html


リンクに記載されている2ndヴァース4行目と5行目を


感じていられる夢見る旅人
現実はなれ生きたいこの世の中、でも


と変更。

「もうがまんできない」:https://j-lyric.net/artist/a050539/l017320.html


こちらはワンポイントのみ。リンクに記載されている3rdヴァース5行目を


弱いヤツラのおつむにゃ


と変更。


というのが2の変更内容です。
今回の2023年の久保田真琴リマスターバージョンはこの2のゴドウィンミックスを音源ソースとした新規リマスターバージョンです。オリジナルレコードの音源ではないというのが注意点です。07年にオリジナル盤ソースのリマスターをしているのもあっての今回のリマスター、という事なのかと思われます。



ミックスが違う事による音の差異は先に挙げたhsysさんのブログに詳しいのでそちらを参照して欲しいのですが、実は現在各種サブスクで配信されている音源はアナログリマスターの07年盤ですので手っ取り早く聞けてしまいます。既に23年リマスターを持ってる人は聞き比べてみるのもいいかと。



全体にゴドウィンミックスの方がトータルバランスの良いミックスになっていて、オリジナルはドンシャリ感を強調したミックスなので、聞いているとビートと高低音のメリハリが強調されている分だけ、酩酊感が強くドラッギーな味わいになっています。



『ニセ予言者ども』


続いて『ニセ予言者ども』。前作が代表作であるなら、こちらは最高傑作の呼び声も高い一作です。この二作を同じ年(1987年)にリリースしているのだから、すごいのですがそれはともかく。この『ニセ予言者ども』『裸の王様』よりも盤違いが複雑な事になっています。こちらも盤違いの種類は以下の通りに。

1. オリジナルアナログ盤(1987)
2. 最初のCD化(1989)→オリジナル盤とは異なるミックスでリリース
3. CDリマスター(1998) →2のリマスター盤 ※実際は異なる。後述
4. オリジナルアナログミックスのCDリマスター(2007)
5. アナログ盤リイシュー(2020)→4のレコードリイシュー
6. 久保田真琴リマスター(2023)→2のミックスを使用した最新リマスター NEW!


『裸の王様』同様、初CD化の際にゴドウィンミックスとなり、江戸アケミの意向によって「みちくさ」の歌詞が一部変更、再録音となっています。先に歌詞の変更部分を見ておきます。


「みちくさ」:https://j-lyric.net/artist/a050539/l01731f.html


6分50秒前後、リンク記載の1stヴァース繰り返しの2行目、3行目を


そんな世界に俺たちは住んでる
過去から未来へと移り行く時代の狭間


と、変更。


今回の23年久保田真琴リマスターは2のゴドウィンミックスをリマスターした音源でありオリジナルレコードの音源ではない、というのも『裸の王様』と同様です。こちらも07年盤のアナログリマスターが各種サブスクで聞けるので聞き比べが面白いかと。



こちらはゴドウィンミックスだと全体的に楽器演奏の分離がよく聞こえる一方、オリジナルミックスは演奏が中央に集まって聞こえる分、ひと塊のバンド演奏がパワフルに聞こえる感じでしょうか。こちらも先のブログ記事の解説が詳しいですが、『裸の王様』『ニセ予言者ども』どちらも差し替えたボーカルテイクのニュアンスの差に好みが別れる所かとは思います。歌詞の変更部分は良くなってるとは思うのですが。


で、ここからが本題というか余談です。
『ニセ予言者ども』98年リマスター盤について。このアルバムが結構曲者なのです。



バックトラック(演奏)については2のゴドウィンミックスのリマスター盤なのです。しかし「みちくさ」のボーカルトラックについてはなぜか1のオリジナルテイクが採用されています。恐らく何かの手違いでこうなってしまったのだと考えられますが、『ニセ予言者ども』の3については1(オリジナルレコード)のボーカルテイクと2(初CD化)の演奏ミックスの混合リマスターという奇妙なバージョンとなっています。

つまり2のゴドウィンミックスの完全リマスターは今回の23年久保田真琴リマスターが初となります。89年盤が入手しづらい今、今回の久保田真琴リマスターで「みちくさ」の歌詞変更バージョンを初めて聞く人も中にはいるかもしれませんね。

筆者は当初98年盤を所持していて、07年盤を入手した際に「みちくさ」の歌詞変更を情報として知っていたので、聞き比べをしていても違いが分からず首を傾げていたのですが、89年盤を手に入れてようやく違いが分かったという経緯があったりします。この辺は情報が全然なかったので、気付くのに時間が掛かりました。どちらも傑作と言えるアルバムなので今回のリイシューで多くの人に聞いてもらいたいと思いますが、盤違いが煩雑としているのと情報があまりなかったので筆を取らせていただきました。探す時の参考にでもしていただければ幸いです。