音楽鑑賞履歴(2019年3月) No.1302~1308

月一恒例の音楽鑑賞履歴。

今月は7枚です。少し復調。

最近、TwitterのTLから流れてくる新譜の情報を元にSpotifyで聞くということもしてますけども、本記事は基本的に購入物のレビューなのでTwitterのつぶやきは含まれない方向で書いてますので悪しからず。なんというか定期更新用の生存報告記事ですので、向こうは向こうで見ていただければなと思います。
しかしまあもう今年も1/3が過ぎてしまいました、早いものです。
3月はなんとなくGrapevine特集となってます。リリース順に買ってないのでアルバムの順番が前後してますが。それはそれとして。
書いてるのは4月なので、新元号「令和」が発表となって色々と世間が賑わっていますが、このブログはマイペースに行きたいと思います。
というわけで以下より感想です。


イデアの水槽

イデアの水槽

03年発表6th。ガレージロックとソウルの影響が色濃く出たアルバム。そこにUKのギターロック的な荘厳さがかすかに感じられ、アメリカンな黒さと英国的なシニカルな野暮ったさが同居してるのがなかなか興味深いし、面白い感じ。ボトムラインに重きを置いているためか、骨太なギターロックがより強靭に。
心地よくうねるベースライン、跳ねるビートにガレージロックというかギターロック的なザクザクとしたリフが重なって、グレイプバインならではというバンドスタイルが出来上がっていて、呼応するようにボーカルがシャウトする。歌っていて気持ち良さがあるのだろうなと思わせるエネルギッシュな演奏。
後追いで聴いているせいもあるかもしれないが、この時点でやはり相当にソウルミュージック的な黒さを滲ませているのが目を引く。もちろんバンド名の由来がマーヴィン・ゲイの曲だというのは百も承知だが、本作に至って、その影響を素で出せているようにすら思う。ダークさも含めてソウルフルな快作かと


VOXXX

VOXXX

・00年発表8th。大ヒットした前作の余波を受けて制作され、前作以上に作りが過激になった感のある一枚。楽曲ともコントともつかないものが入り混じり、シニカルな毒気とコミカルなユーモアが渾然一体となって、ドラッギーに構成されるミックスパーティといった趣がとても強い。
その根底にはYMOスネークマンショーの影がちらつきながらも、ジャーマンテクノやアシッドハウスの影響も包み隠していない、分厚いシンセとゴリゴリのキックを滝のごとく浴びせられる。その上でミックスの切り替わりが恐ろしくスムーズで流れてくるリズムとメロディによって、自然とノセられていく。
構成もきわめてクレバー、後半の盛り上がり所でアルバムに提示されていたシニカルとコミカルがピークで混ざり合い、一気にブレイクしていくのはただ快感でしかないだろう。それでいてミュンヘンディスコらしい下世話さとパチンコのようなフィーバー感覚が重なり合わさり、日本らしい感触にもなっている
笑い(コミカル)とアジッドハウスが混ざり合って、乱痴気騒ぎに祝祭感を伴うのがえらく日本っぽさを感じさせるわけだが、この領域に到達してるアルバムもあまり類を見ないか。海外のシーンに目配せしながらも、日本のテクノも見事に提示しているアルバムだと思う。

d e racin e

d e racin e

05年発表7th。前作との間に一枚ミニアルバムを挟んで、発表されたアルバム。前作に比べると、ざらついた感触のギターロックにブルージーな憂いの表情とうっすらウェストコースト的なアーシーさも目立つか。ベースが相変わらずうねっているのがバンドの屋台骨という印象。
スローやミディアムの楽曲がより味わい深さを増しており、先に説明したブルージーさやアーシーな感覚がファストナンバーより際立っているように思う。かといって枯れた味わいがあるのではなく、ギラついた生気がスキあらば所構わず、ギターをかき鳴らしてくるのがグレイプバインらしい。
内省的な感情を携えつつ、どことなくすっきりとしない開放感を感じさせてくれるアルバムで、楽曲には華や派手さが削ぎ落とされた内容ではあるが、良くも悪くもその武骨で骨太い印象が我が道を行くバンドらしい姿勢が伺えて、ほっとする安定感のある良作の一枚だろう。意外とスルメな作品だと思う。

アーダー(熱情)(紙ジャケット仕様)

アーダー(熱情)(紙ジャケット仕様)

75年発表1st。プログレ辺境地アメリカ出身のバンド。YesやGenesisの影響が色濃いアンサンブルを主体に、ジャジーな質感やアメリカンポップスの素養も伺えるサウンドの構築力の高さが特徴か。ぎりぎりハイテクポップスになりきれない、70年代らしい垢抜けなさも感じられるがそこも味わいだろう。
やや古めかしいシンセサイザーの音色や全体に感じられる朴訥とした雰囲気、あるいはヨーロピアンな感触の薄いSF色や曲展開のモンドなブレイク感は今聞くと興味深く、サンプリングソースとしても有用なのではないかと感じられる。時代の遺物ではあるが、かとなく人懐っこしさも感じられる佳作の一品かと

Autobahn-Remastered

Autobahn-Remastered

・74年発表4th。主要メンバーが習作だと位置づける前作までを踏まえてリリースされた、テクノミュージック開闢の一作と目される金字塔的作品。22分の大作であるタイトルトラックとよりサウンドスケープ室内楽的要素を含んだ小曲という構成。とにもかくにも、タイトルトラックが目を引く。
非常にたおやかな電子音トリップミュージックといった趣で、その空疎な緩やかさが返ってクセになる。曲構成も悠然としたドイツのアウトバーンを走行するイメージが強く、ビートやメロディもまったりとしていて温かみのある印象を受けるか。ポップな響きではあるけど非ポップな趣きも強い。
どちらかというと室内楽や現代音楽的なアプローチがこの時点ではまだ強く、まさしく電子音の響きがポップに聞こえたことがエポックメイキングだったと言えるだろう。そういったフレーバーを提示した一枚でもあり、音楽の新たな可能性が開けた点で歴史的に重要な作品だ。今聞くとそのユルさが趣き深い。


Mothership Connection

Mothership Connection

75年発表4th。いわゆるP-FunkP-Funkたるコンセプトが確立された一枚。これまでも平行して活動していたファンカデリックのコズミックなサイケ感覚をよりファンクの形でSF的なコンセプトによって昇華されたものがこのアルバムという位置づけなのだと思う。
本作からスターチャイルドというキャラクターが、ファンクと敵対するキャラクターサー・ノウズ・ディヴォイドオブファンクとの戦いを繰り広げていくSF的なコミカル叙事詩という体で展開されていくそうで、そういう点では戯作的な要素も含んだP-Funkワールドが提示された作品でもあるのかと。
反面、そういった下世話なSF設定とは裏腹に演奏自体は非常にタイトでスマートな印象すら与えるクールなファンクで驚く。ファンカデリックのホットでロックな感じとは対照的。もちろんグルーヴの高揚感はあるが、知性を感じさせる構築美も感じられ、スライ由来の醒めたトーンも顔を見せるのが興味深い。
面白いのはファンクのミニマルさがロックオペラ的な叙事詩の語りと意外にもマッチしているということ。楽曲に起伏のない、反復によるグルーヴが生まれてるので歌によって抑揚をつけることはある種、発明でもありコンセプチュアルな内容をつむぐ上でも最適なのかもしれない。様々な点でエポックな名盤だ


another sky

another sky

02年発表5th。前作におけるUKギターロックのサウンドスケープ的な荘厳さへサイケなフレーバーが散りばめられる一方で、ボトムラインのグルーヴィーさや裏で鳴るオルガンのフレーズだったりはソウルミュージックの要素が垣間見えたりと枯れた味わいとウェットなギターのサステインがいい塩梅の作品。
英米のロックが程よく混ざり合っていて、それがグレイプバインの音楽になっているというのがよく窺える内容だと思う。ブルージーでもあり、サイケでもあり、一方でソウルフルでギターロックもしていて、それらが渾然一体となって奏でられている。こういう匙加減は返って本場では生まれ得なかったと思う
骨ばっかりじゃなく、きちんと脂の乗った肉も付いた味わい深いサウンドになっており、アルバムのまとまりで言えば、本作はバランスの良さが際立っているアルバムだと思う。次作になるとソウル色が色濃くなるのも含めて、彼らのベーシックな魅力がよく伝わってくる良盤なのではないかと。