新年明けましておめでとうございます。
とか何とか言いつつ、三が日を過ぎてからの更新なのであんまり謹賀新年という趣でもありませんが、月一恒例の音楽鑑賞履歴です。
14枚。
まだ一昨年購入分を消化しきってませんが、今年もぼちぼち聞けていけたらいいなと思います。
今回はデヴィッド・ボウイ特集。亡くなる二、三ヶ月前に衝動的に買い漁ったのが虫の知らせだったかどうかはさて知らず、今年で三回忌です。いいタイミングで聞けたのかな、とは思います。この先も次々と彼岸に旅立つ人が多くなっていくんでしょうけども、それはそれで残していったものをこうやって聞き返していくのだろうなあと。今年はいったい何が待ってることやらです。
というわけで以下より感想です。
- アーティスト:Bowie, David
- 発売日: 1999/08/26
- メディア: CD
フォークといっても、アメリカンなプロテストソングというよりは、英国らしいトラッドソング的な趣が強いし、そのサウンドテクスチャーやメロディラインからはやはりビートルズの影響が非常に色濃く感じられる。特に本盤のポップな質感はまさしく、といったところだ。とはいえ、音は比較的マニアック。
曲の陰影が濃い分、物憂げな儚さも強く、その芝居がかった展開に個性は見出せるか。その沈痛な叙情は後の作品にも繋がっていくと思うとなかなか興味深い作品だし、最初の代表曲ともなった表題曲はこのアルバムを象徴しているものだろう。再出発にはこの上ないスタートを切った良作だ。
余談だが、演奏メンバーにはかのリック・ウェイクマンが参加しているが実は本作がレコードデビューとなる。ほかにもペンタングルのメンバーなど実力あるセッションミュージシャンも参加しているし、なにより長らくの盟友となるトニー・ヴィスコンティとの最初の一作であることも記憶しておきたい。70年発表3rd。前作の叙情系アシッドフォーク路線から、ロック的なアプローチにシフトした作品。本作から盟友、ミック・ロンソンがバンドに参加したのもあり、当時勃興しつつあったグラムロックの夜明けを感じる。ショービズ的な華やかさが、ロックの猥雑さを絡み合う瞬間を収めた内容が興味深い。
時期を前後してロック・オペラなるものも確立しているが、今思えばグラムロックもそういった流れの一つだったのではと思う。ジャケットの女装したボウイの姿もあるように虚飾の中でシアトリカルにキャラを演じて歌うというフォーマットは演劇的でもあるかと。事実、楽曲もミュージカル要素も帯びている
アルバムのコンセプトに向かわず、演者(プレイヤー)に向かったのがグラムロックであるとすると、本作の以降のボウイの活動も頷けるものがある。楽曲の方はそういった小劇場的な華やかさが粗野なハードロックを優雅に仕立てているし、前作のプログレ的な叙情性も匂わせていて、ドラマティックな音作り
ただそういった演者のファッショナブルな上っ面だけが持て囃されたせいでブームとしては急速にしぼんでゆくわけだが、グラムロックの本質を捉えていたのはボウイだけかもしれない。そういう点では新しい表現を切り開いた一作ではあるし、今聞いても出来の良さは変わらないアルバムだろう。
- アーティスト:Bowie, David
- 発売日: 2015/09/25
- メディア: CD
ケバケバしく猥雑な印象と絡まり、8ビートのベーシックなロックンロールがボウイの個性と場末のミュージカルハウスの爛れた雰囲気とでエキゾチックかつシアトリカルに鳴り響く。叙情性はあまり感じられないがその芝居がかった感触はこの当時にしか生まれ得ないものだろう。
前作と比べても、作風は様変わりしていて、ストーンズのカバー曲でもある8に象徴されるように虚構的なスターよりなにかしらの生々しさを伝える一枚になっていると思う。当時のボウイの勢いと個性の眩さを感じる、ドラスティックな一作。ジギー・スターダストの一年後に出たと思えば、それも驚異的だ。
- アーティスト:Bowie, David
- 発売日: 1999/08/26
- メディア: CD
管理社会の恐怖を描いた近未来小説を原案としているのもあり、アルバム全体が非常に退廃的な趣と閉塞感が強く感じられる。それが翻って、ボウイ自身の「虚構のロックスターを演じ続ける」事への行き詰まりが現れているようにも感じられる。それがこのアルバム独特の息苦しさにも繋がっていそうだ。
ここで奏でられるロックンロールに纏わりつくのは閉塞感であり倦怠感であり、疲弊感だ。空回りしているというわけでは必ずしもないが楽曲の質とボウイの歌唱力が微妙に噛み合ってない。その微妙なズレがアルバムの魅力になっているが、このいびつさがグラム・ロックの完成型であり終着点なのが興味深い
グラムロック自体が「現実における居心地の悪さ」を表現したものであるならば、このアルバムはまさしく「居心地の悪さ」を具現化した作品であり、この気持ち良くならない感じこそがグラムロックを象徴しているのではないかと思う。そういう点では完璧にならなかったからこその完成度というべきだろうか
またこのアルバムから、晩年にまで続くバリトンを意識したような呻く低音ボイスが聞けるようになっている。そういった点でも過渡期の作品でもあり、ひとつの終焉を描いた作品のように思う。誰しもに推せる名作ではないがターニングポイントになった作品だろう。猥雑さがクセになる。
- アーティスト:BOWIE, DAVID
- 発売日: 2003/07/21
- メディア: CD
コンセプトは掲げられているが、かつての強烈さは減退し、アルバム全体の雰囲気や楽曲は以前より洗練されている。一方で、自覚的にソウルやファンクリズムを取り入れているのが目を引く。黒人のファンキーなグルーヴをどこまで身につけられるかの実験のようにも感じられ、試行錯誤してるのが目に浮かぶ
とはいえ、ボウイの個性は隠そうとも隠しきれない程には独特であり、どんなジャンルをやってもボウイらしくなってしまうのが強みでもあり弱みでもあるか。今にして思えば、この時点で表現手段としてのロックに限界を見ていたのではないか、という見方も出来なくはない。質感は古いが、現代に通じる点も
ロックを何を結びつけて、強度を高めるという試行錯誤は後のオルタナのことを考えれば、不思議ではないアプローチではあるし、本作の後、ベルリン時代に入り、ポストロック的な指向を示すわけだから、ある種先駆的でもあると思う。ついでにいえば、本作は80年代で大ブレイクする布石でもある。
前作と本作で繰り広げられる黒人音楽へのアプローチがダンスミュージック、ひいてはポップミュージックへと繋がっているわけで、歴史的に見ていくと後の作品においてのカルトスターからの「転向」は必然を伴っているようにも感じるのが興味深い。これもまた過渡期ではあるが、重要な布石を打った一枚だ
- アーティスト:Bowie, David
- 発売日: 1999/08/26
- メディア: CD
この構成は次作にも引き継がれるが、サウンドはクラウトロックやジャーマンテクノに影響されたダークかつ硬質な音で前作までの黒人音楽に影響されたものとは一変している。印象としてはジョン・フォックス時代のウルトラヴォックスだが彼らの1stより本作の方が発売が早い。
いわゆるジャーマンテクノ的な静寂とデカダンが英国的美意識と繋がり、ヨーロッパ的な耽美サウンドと結実していく様子が本作で窺えるのが面白い。そしてそれがそのまま、パンク/NWサウンドとなっていくのだから、この当時のボウイの審美眼が鋭かったことがよく分かる。
本作より始まる、ベルリン時代はボウイのキャリア的にもかなり特異点な時期というのもあり、以前のキャリアから断絶された無機質な音は賛否がある事も頷けるがこの年より吹き荒れるパンク/NWの大波にいち早く呼応してるようにも感じられるし、既にポストパンク、ポストロックの領域にも踏み入れている
次作はロック色が強くなるが、薬物療養によるデトックスの影響か、ジャーマンテクノのアンビエントな部分によるものなのか、サウンドが漂白された無国籍サウンドである事からもかつての姿をリセットするために必要な過程だったのかもしれない。時代の狭間で新たな脱皮を果たそうとする瞬間を捉えた一作
- アーティスト:Bowie, David
- 発売日: 1999/08/26
- メディア: CD
というのも、ボウイがベルリンに赴いたのはドラッグ脱却を目的にした療養が側面としてあることを鑑みれば、アルバムの雰囲気が盤を重ねるごとに明るくなっていくのも理解は難くない。むしろ過去二作と比べても、洗いざらい清算したような、抜けのいい音が響くのが本作の特徴だろう。
だがそれ以上に注目すべき所は、この時点で「サードワールド・ミュージック」を取り込んたロックを提示してしまっている点に尽きるだろう。特にレコードのA面に当たる1〜5にその傾向がとても顕著であり、今までになくエキゾチックなサウンドが繰り広げられている。時代を考えるとあまりにも先駆的だ
おそらく過去二作以上にブライアン・イーノが曲作りに関与しているのも、そういった要素を取り込むため、のように感じられるし、この時点では目が向けられなかった地域の音楽を取り上げていることが実験的といえば実験的。この流れが顕著になるのが80年代後半だから5年以上早い。
が、ほぼ同時期から民俗音楽を積極的に取り入れることになる、ピーター・ゲイブリエルとは異なって、ボウイは本作のレコードB面にあたる6〜10で過去に繰り広げたロックや黒人音楽のポップさも振り返っている事に心身の復調も窺える。そういった点では過去の清算と実験的部分が入り混じった作品だ
ベルリン時代は心身のデトックスを行ったためか、今までの音が漂白され、真っ白な状態で新しい要素と今までの要素を合わせる過程にあったように思う。特異なのはその過程が時代とリンクしていた事で高い音楽性が表出したことだろう。そういう意味ではボウイが自身の70年代にピリオドを打った一枚だ。
- アーティスト:GONG
- 発売日: 2004/10/04
- メディア: CD
グロッケンやマリンバの滑らかなメロディとリズムが主体となって、ゲストたちの演奏がそれを彩るように構成されており、聞き方の角度を変えれば、宗教的な陶酔感も滲み出ているようにも感じる作りだ。この辺りはヒッピーであったデヴィッド・アレンの精神がバンドの血肉化しているのもありそうだ。
ミニマルでカラフルな躁的響きの中にシニカルでクールな感情が挟み込まれているのも興味深いが、全体の雰囲気はサイケであり、過去のキャリアを踏襲しているのがよく分かる。前作の焼き直しサウンド、というのは否定できないがこれはこれで佳作だろう
- アーティスト:Bowie, David
- 発売日: 2013/02/25
- メディア: CD
自らの作り出したキャラクターを「演じる」事より開放されて、何のコンセプトもテーマもなく、お気に入りの曲をただカバーするだけ、という内容なのだがその無邪気さというべきか奇の衒いの無さが功を奏したのか、非常に抜けのいいポップな作品となっていて、興味深い。同時に地力の強さも感じられる。
ヤードバーズや初期のピンク・フロイドをやっても、ザ・フーやキンクスを歌っても、ボウイの歌にしか聞こえないのはご愛嬌だが、単なるカバーに陥っていないのもその個性に他ならない。何より楽しそうに歌う様が感じ取られるのもこの作品の明快さに繋がっているのは間違いない。
自らのグラムロック期に区切りとつけた後、その幕引きが次作となるわけだがそれを考えても、箸休めな企画ともいえる本作に対して決して手を抜かない姿勢には生真面目さも垣間見えるか。ボウイの個性と魅力がよく表れたポップな良作。初手としてもお勧めできる一枚かと。
- アーティスト:Bowie, David
- 発売日: 1999/08/26
- メディア: CD
ソウルミュージックを基軸にした内容ではあるのだが、その捉え方は非常に独特で、ボウイ自ら「プラスティック・ソウル」と呼んだように、非常にあっさりとした、なおかつソウルフルな感触も残る、不思議な質感が盤全体を支配している。というのも本作がグルーヴィさやファンキーさより程遠いからだ。
ソウルやファンク、R&Bにおける粘っこいボトムラインのリズムが本作では極めて直線的というかロック的な淡白なビートであるために、あっさりはしているが深みには欠けるというものになっているゆえだろう。そのぎこちなさが本作の特徴といえば特徴でとても興味深い部分でもある
ぎこちなさ、つまり違和感があって、腑に落ちないところにもリンクしているのだが、まさしくそれこそがグラムロックの所在無さと重なっていて、音楽的にもボウイの音楽遍歴的にも地続きであることが証明されているように思う。言葉は悪いが「模造品」っぽい如何わしさが本作の楽曲には感じられるのだ。
フェイクっぽいというとそれまでだが、本作はそれを拠り所にしているように思う。模造品らしい軽薄なソウルミュージックとなっている部分にボウイらしさを感じるのは面白い所だ。そういう点では実験作の向きが強い佳作だろうか。このソウル路線は次作に引き継がれ、より洗練されることになる。
また本作は制作中にジョン・レノンとのセッションがあった事でも知られ、その結果が共作曲の8で全米1位となっているし、ビートルズカバーも収録されている。また後にソロシンガーとしても活躍するルーサー・ヴァンドロスも参加しており、華を添えているのも注目したいところ。
- アーティスト:メロキュア
- 発売日: 2015/08/26
- メディア: CD
ユニット名自体はパンクのメロコアが由来らしいが、楽曲の方はHM/HRのメロディアス・ハードの方を思い浮かべる、キレのあるサウンドに、渋谷系の影響がある柔らかでファンシーなメロディやJ-POPや歌謡曲的な展開を見せる、ミクスチャーなものがそろっている。何よりメンバー二人の歌声の個性が際立つ。
ウィスパーボイスな岡崎律子と明快なハイトーンの日向めぐみのコントラストもあって、非常に陽的な雰囲気に包まれた内容となっている。惜しむらくは一曲ごとの密度が濃いのでアルバムとしての質量がかなりヘヴィであることか。2枚目はトリビュート的な新曲と未収録バージョンを収録。魅力ある良作だ。84年発表4th。ブレイクを果たした一枚。端的にいえば、ライトメロウでブギーなシティポップ。が、もう少し奥に掘り下げてみれば、ラテンミュージックを基調としたトロピカルなサウンドに当時のエレクトリックブギーの質感が重なっている所がとても歌謡曲的でもあり、一方でロックには程遠い感触が独特
ぱっと見の印象ではアイドルではあるが、その実、シンガーソングライターであるところが一線を画している点であり、アルバム全体に溢れるリゾート感を演出してるのは編曲家に拠る部分も強いが彼女自身であることも見逃せない。この熟れた濃密な雰囲気が堪らない充実の名盤だろう。ザ・80’sサウンド
- アーティスト:Base Ball Bear
- 発売日: 2011/11/09
- メディア: CD
従来のサウンドを発展させている一方で、テンポを落としたり、アコースティックやパーカッションなどを入れていて、若さによる勢いより、10代にはない余裕とビターな味わいと織り交ぜているのが自然と歌詞にも反映されている。若さに頼らない深みが滲み出た意欲作。未成年には少し早い、翳りがある。
- アーティスト:Base Ball Bear,RHYMESTER
- 発売日: 2014/06/04
- メディア: CD
身が詰まったというか、肉が付いたというか。取り入れているジャンルも以前に増して多様になった感が強く、ライムスターのコラボ曲などバンドが拡張してきた幅を一気に開花させたような、ひとつの成果を感じさせる。質量ともに大ボリュームの充実作だろう。盤を重ねるごとに成長しているのは驚異的だ。
- アーティスト:Bowie, David
- 発売日: 1999/08/26
- メディア: CD
というより、冒頭に始まる代表曲「Changes」に掲げられたようにこのアルバムのコンセプトは「変化」なのだろう。ジギー・スターダストという「役柄」を見つけるまでの過程というか、パーソナルからコマーシャルに至るまでボウイが多種多様な「顔」を見せていくし、それらを奔放に演じ分けていく。
その為、アルバムとしてはまとまりがない感じもなくもないが、「演じる」事に彼のグラム・ロック感があるとするならば、このアルバムはありとあらゆる可能性を試しているように思うし、結果的に後のキャリアを開拓していく「種蒔き」だったように思う。ボウイの個性がさらに花開く直前を捉えている。
ジギー・スターダストもいれば、アメリカ時代のソウルフルな趣も、ベルリン時代の前衛的な姿も、はたまた80年代におけるポップスターのボウイもここには詰まっているし、そういった固まりきる前の個性のカオシックな魅力が満ちた一枚になっているのだと思う。キャリアにおいての最重要作だろう。