音楽鑑賞履歴(2017年5月)No1078〜1098

月一恒例の音楽鑑賞履歴。

はてなダイアリーTwitterを駆使しながら、手前味噌でまとめていく作業も少し小慣れてきた感じです。

今月は20枚。5月もグレッグ・オールマンの訃報が。なんだか近頃、往年のミュージシャンが毎月のように亡くなっていきますね。黄昏時にいる気分を感じます。とはいえ、J-POP(とアニメ)&アメリカンミュージック特集、最後にイタリアのプログレバンド、AREA特集というラインナップ。月末のビートルズは6月への複線だったりしますがそれはさておき。この位の量をコンスタントに聞いていきたい所。

とまあ、そんなところで以下から感想です。


PUSHED RICE(完全生産限定盤)(DVD付)

PUSHED RICE(完全生産限定盤)(DVD付)

・97年発表14th。後の再結成を考えなければ、これがラストアルバム。ライヴでしか演奏してこなかった曲なども収録しながらも米米クラブの最後の勇姿を大真面目に務め上げている作品だろう。日本らしい祝祭感とゴージャス感目白押しでこれで解散という雰囲気が感じられないくらいの華々しい〆。
ただバブルも弾けて、阪神大震災という未曾有の災害を通過した後に出た作品だということを考慮すると、彼らの全盛期だった時期のアッパーな高揚感を思わせるサウンドは当時の風潮からはやはり時代遅れだったのかなと思わざるを得ないか。今聞くと、彼らの底力というか地力の高さが窺える出来だが。
彼らのおちゃらけたコミカルな部分とバブリーなゴージャス感が生き辛かった時代とはいえ、時代とズレてしまったポピュラーミュージックの宿命を感じる作品かと。とはいえ、最初に言ったように彼ららしく真っ当に幕引きをしている作品であり、一切手抜きなしの非常に練られた良盤。再評価したい一枚だ。

・11年発表5th。ベスト盤を発表して、活動に一区切りをつけた彼らが新メンバーを加え、新出発したアルバム。ここまでの作風をアルバム一枚に集約したような内容となっていて、ギターポップありエレクトロあり、R&RありのひっくるめてTahiti80印のサウンドが聞こえてくる。
ポップマニアらしいニッチさもそここに見え隠れしているのと、この時点ではまだ猫も杓子もエレクトロ&EDMという流れではなかった分、楽曲がどちらか一辺倒に偏らず、どちらの音も両立している印象が目立つ。反面、いいとこ取りをしたせいでアルバムの印象がどっちつかずな感じで惜しい所。
現代のポップミュージックの分水嶺というべきか、時代の分かれ目だったのか、確かではないがここで響いてくる音はどちらか一辺倒に触れる直前の未分化なものに聞こえなくない。ロックにアナログな趣を見出せてしまう今の風潮に照らし合わせてしまうと、内容的にはインパクトが薄く感じる一枚か。

LOVE! LOVE! & LOVE!

LOVE! LOVE! & LOVE!

91年発表1st。元祖渋谷系ともいうべきバンド、オリジナルラヴの初作。この時点ではまだ中心人物、田島貴男のソロプロジェクトではなく5人体制のバンド。デビュー作にして二枚組アルバムという大作を仕掛けてきた。いわゆるロックサウンドではなく、ブラックミュージックを主軸にしたサウンド
ソウル、ファンク、ラテン、ジャズ、キューバン、カリビアン、ボサノヴァ、当時の洋楽界隈で流行したカフェミュージックやラウンジミュージックといった、軽やかでお洒落に演奏された音楽が男のロマンチズムたっぷりに汗臭くなおかつ暑苦しく濃密に歌われる事によって、しっかりとした重さを感じる。
軽薄な中身の伴わない音楽ということは決してなく、影響元の音楽にしっかりとリスペクトした上で、煮えたぎるマグマのような情熱を感じる作品という印象を感じる。そんな熱量と濃い密度なのでキャッチーさにはやや欠けるが、彼らのミュージシャンシップは大いに感じる名盤。下手に聞くと火傷する。

ソニック・スケート・サーヴェイヤー

ソニック・スケート・サーヴェイヤー


94年インディーズ発表1st、97年メジャー発表2nd。YMOのパロディバンドとして随一の知名度を誇るユニット。インディーズとメジャーでリリース順が逆になっていて、2ndにして1stという売り文句が目を引く。実は、というほどではないがバンドはナムコサウンドチームのメンバーである
基本的に彼らの音楽は本家であるYMOのパロディがメインではあるが、本作は下敷きになる楽曲を踏まえて、マッシュアップ的に作られただろうオリジナル曲を前半に配置し、後半には「BGM」収録曲をモチーフにしたものが収められている。作品全体もタイトルは本家2ndからの引用だが音はBGM寄り
それゆえにジャケットの印象とは裏腹に、不穏さと病んだ雰囲気に覆われている作品ではあるのだが、この奇妙かつ淀んだ空気の中でYMOをパロディする感覚がポップに響いており、重苦しくないのが面白い仕上がりかと。もちろんパロディバンドとしてはこの上なく高水準。サイバー&バイオニックな佳作。

Road to Ruin (Dlx)

Road to Ruin (Dlx)

78年発表4th。ドラムが交代して新体制の一枚。基本的にはやってることにあまり変わりはないけど、フレーバーがちょっと違うというか、さらに60sポップス寄りになって、メロディの甘さがより引き立った印象がある。従来のファストナンバーの一辺倒ではなく、テンポダウンした曲も目立つ。
78年というとロンドン・パンク・ブームが収束を迎えていた頃ではあるが、ラモーンズはそういった動きからはどこ吹く風で、彼らは彼らの道をただ突き進んでいる。自分たちのスタイルを曲げようとせずに貫き通した辺りにストイックさも感じる。同時に我が道を進む事の必死さを感じるアンニュイな佳作か

プラネテス O.S.T.2

プラネテス O.S.T.2

04年発売OST。同名アニメ作品のサントラ第二弾。終盤に挿入歌として本編に使用された「Planets」も収録されている。全体に中川幸太郎のコンテンポラリーな部分が色濃く出た内容で、宇宙を舞台にした作品でもあるので浮遊感や不思議な響きの曲が多いか。リズム面でも後の片鱗が見え隠れする
和楽器(筝や和太鼓など)や胡弓といった東洋の民族楽器に、トランペットなどの金管楽器も加わり、オーケストラのような厚みが作品を補強している印象。あまりジャズ色はないがアメリカンルーツミュージックのとぼけた雰囲気もあったりで楽しめる。全体には緊迫感にシリアスな響きも伴った一枚かと。

刹那

刹那

03年発表編集盤。シングルリリースされてアルバム未収録の楽曲を取りまとめた作品。が、ファンが待ち望んでいただろう、キャリア的にも重要な楽曲が軒並み収録されていない所が痛し痒しといった内容になっている。ファンの期待に沿わない姿勢はらしいといえばらしい。反面これはコンセプトアルバムだ
「流星ビバップ」で始まり、「流星ビバップ」で締めくくられる構成からも明らかのように、自らを「流星」になぞらえて、在りし日を振り返るという形になっている。「流星(=スター)」だった頃を回顧して、輝かしい「星」が流れ落ちる時間は一瞬、つまり「刹那」だったよね、と提示してるように思える
万物は流転する。だからこそ「刹那」が美しく思える。そういったいつかの「流星」を思い出すために構成されたアルバムであり、結果的に小沢健二の「二十代の青春」を収めることに注力した作品なのではないかと感じる。この意図が正しければ、本作収録を見送られた楽曲はおそらく現在に繋がっているはず
それが本当に意図されたことかどうかはよく分からないが、今年2017年に出た新曲を考えるにやはり、意識の変化と今に繋がる思考があの時点で発生しており、それが連綿と続いてるようにも見える。そういった観点からもやはり「何か」を締めくくった作品であるのだ。編集盤だが意思の込められた作品だ

スタッフ・イット<FUSION 1000>

スタッフ・イット

79年発表3rd。スタジオ最終作。前作前々作と音楽的には高評価だが、商業的には芳しくなかった為、プロデューサーにスティーヴ・クロッパーを招聘して、よりポピュラーな方向に舵を切った作品。ホーンセクションやヴォーカル、コーラスを入れて、華やかなサウンドだが、ナチュラルな響きは健在だ。
屈託がなく、爽やかだが人懐っこさのある演奏はひたすらに気持ちよくグルーヴィ。プロデューサー的にはブッカーT&MG'sとバンドのあり方が似ているのだなという共通項もあったりで、専属の歌い手がいない歌モノバンドとしてはフュージョン&クロスオーバー期の第一級品だろう。
残念ながら以降、メンバーのソロ活動が多忙になったことで自然消滅してしまうがこの当時の第一線のスタジオミュージシャンが一堂に集い、高級家具のような絶妙の使い心地を体感させてくれる、ポップミュージックの結晶が収められているのは時代の記録として、いつまでも残るだろう。三作ともに良作だ。

After the Gold Rush

After the Gold Rush

・70年発表3rd。次作と共に初期の代表作として有名な作品。全体にはSSWらしい弾き語り主体のサウンドだが、武骨かつ繊細な男臭いニュアンスが演奏に緊張感を与えて、引き締めているのに独特な趣を感じる。苦み走る渋みに厭世観や無常が漂い、現世という荒野に独り佇んで聞くうらびれた一枚。

ライヴ・スタッフ<FUSION 1000>

ライヴ・スタッフ

78年発表ライヴ盤。78年11月の東京郵便貯金ホールでの来日公演の模様をパッケージした作品。ツインドラムの片割れ、クリス・パーカーが病欠により5人体制でのライヴとなっているが、精彩を欠くどころか生演奏ならではの熱気とパワフルさに圧倒される。スタジオよりもテンションが高い。
といっても、このバンドらしく、テクニックをひけらかすわけでもなく、楽曲の心地よいフィーリングを重視したグルーヴィな演奏はまるで歌っているかのように感じられる。ライヴなのもあって、演奏がジャムセッションっぽくなるとメンバー陣のテクニシャンぶりが発揮され、ひたすら夢心地な気分。
曲を規定のランニングタイムに収めるという縛りがあまりないのもあって、阿吽の呼吸でじゃれあう猫のように、キレのある演奏が楽しそうに聞こえる。ハイライトは4だろうか、怒涛のソロパートもさることながら、朗らかで陽気なメロディはいつまでも聞いていたい。スタジオ録音とは違った魅力を放つ良作

イン・ニューヨーク <FUSION 1000>

イン・ニューヨーク

80年発表ライヴ盤。バンドの最終作。彼らのホームグラウンドともいえるNYのジャズ・クラブ「ミケールズ」での演奏を収録した作品。馴染みの場所で気心知れたメンバーとのプレイはアットホームな雰囲気も漂う、非常にリラックスした趣のある和やかなもの。演奏が終わるのにも気付かないほど淀みない
各メンバーが一流のスタジオミュージシャンだけあって、アンサンブルが非常にナチュラル、というより人の手で演奏されるリズムやタイム感がここまで同期されるととても気持ちのいいものになるという究極の証明が本作には収められている。ライヴ演奏のはずなのにスタジオ演奏に聞こえてしまう恐ろしさ。
それだけ精度が高いという事でもあるが、なによりも高い演奏技術をテクニカルにひけらかすことなく、よいメロディとリズムとグルーヴを作り出す事に注力するさまは非常にストイックでもあり職人気質も感じる。そこにライヴの熱気が加われば、言うことはないだろう。自然消滅だが有終の美を飾る一作。

THE COLLECTION

THE COLLECTION

03年発表ベスト盤。81〜84年ごろまで活動した、英国出身のエレクトロファンクバンドのベストアルバム。文脈的にはポスト・ディスコだったりジャズ・ファンクの先駆的なグループのひとつとして目されており、現在のクラブシーンへも密接に繋がるような、煌びやかなシンセサウンドが特徴的。
シンセのメロウな旋律にディスコティックな16ビートのギターカッティングとタイトなドラムが重なる黄金律は一周回って、今らしさも感じられる。バンド末期の音はさらにそこからAOR方面に傾き、メロウさに拍車が掛かっている辺り、80s初頭の複合サウンドと化しているのが興味深い。
全体的にはキャッチーな音色な反面、キラーチューン足りえる曲がなく、ややフックに欠ける点が否めないか。もちろんエレクトロファンクや当時のダンスサウンドを味わうには楽しめる作品ではある。この手のバンドにしては派手さよりスタイリッシュさが強調されている印象。その魅力は感じられる一枚かと

・12年発表OST。同名アニメ作品の2ndシーズンサントラ。前作よりかは緊張感のある楽曲や、シリアスさを伝える楽曲が多い印象だが、第一弾でも感じられたインテリア的な穏やかなメロディも残っており、ロボットアニメ作品にしては独特な質感を持ったサウンドになっていると思う。
全体的にはノスタルジックというかセンチメンタルな趣が強くなっており、前述した楽曲群にもそれが付与されている。透明感がありつつも、そのアプローチは多彩。一番顕著なのはエレロクトロニカだろうか。曲によってはソリッドなビートを聞かせている。ポストクラシカルや現代音楽的な要素も含んでいる
中島愛の歌う劇中歌もこの盤に収録されているので気になる人はチェックしておいてもいいだろう。前作の趣を引き継ぎつつも、よりスケールの大きくなったサウンドは結構聴き応えがあり、音楽単体でも十分一作品として成立しているサントラだろう。前作と合わせて、アニメサントラの良作として評価したい

Idlewild South

Idlewild South

・70年発表2nd。ライヴツアーの合間を縫って制作されたアルバム。売り上げ的にも躍進した。前作と比べると、曲にいっそうの軽やかさが加わり、サウンドがキャッチーになった印象もある。ライヴで鍛え上げた鉄壁のアンサンブルと、演奏力が泥臭くも洗練されたブルージーなロックを響かせている。
アコギやスティールペダルを鳴らすことで音の柔らかさを出しているのもそういった印象を強めているのもあるが、後にライヴの定番曲を収録している点でもバンドの充実っぷりを感じさせる内容だ。特に代表曲でもある4はジャジーな雰囲気も漂うメロウなインストでじわじわと盛り上がる展開が楽しい。
アルバム全体としては30分くらいの作品なのであっさりとした内容ではあるが、バンドの旨味や魅力がぎゅっと凝縮されている。ツインドラム、ツインギターという特性を生かした、ポップなテイストとファンキーなグルーヴが染み入るように味わえる佳作という感じ、繰り返し聞きたくなる一枚。

77年発表5th。大ブレイク作。SSWのポップシンガーという位置づけではあるが、SSW系らしい、フォークやカントリーのような、垢抜けない朴訥な音楽の影響は希薄で、大陸らしい大らかさがあまりない、都会的な洗練されたセンスのポップスという印象が強い。出世作となった本作もそういう印象。
NY(ロングアイランド)出身ということもあって、西海岸的な陽気なサウンドとも異なり、ブロードウェイミュージカルやジャズといった辺りの洒脱したセンスを感じさせ、どちらかといえば土地柄的に距離の近い英国の戯作的な趣もあるのが面白いところ。英国よりは音がカラッとしてるのが北米的か。
似た傾向の音楽であるAORよりは土着的というか大衆的。なおかつストーリーテリング的な歌詞内容がよりそういった演劇的な音楽性に起因してるように思う。なんというかアメリカ都市部の王道ポピュラーソングという印象。映画的というか。そういったセンスの結晶体のようなアルバムだ。
なお余談だが、本作収録で日本で人気の高い「The Stranger」は日本のみのシングルカット曲。またこの盤のヒット曲「素顔のままで」の背景には10ccの「I'm Not In Love」の影響があったりと、そういった元ネタ的にも面白い一枚。もちろんポップソングの名盤です。

RUBBER SOUL

RUBBER SOUL

・65年発表6th。クリスマスシーズンの発売に向けて、短期間(1ヶ月)で製作されたアルバムだがビートルズが音楽性の幅を広げた事で有名な作品。ポップよりロック、アイドルよりミュージシャンへと変貌しつつある彼らを記録している点でも興味深い。使用楽器の幅も広がりを見せている。
当時の流行であったフォークロックの影響から発展して、サイケデリックの香りも漂う雰囲気も時代の趣を感じるし、ここで使用されているシタールの響きやファズギターはいかにもなのであるが、やはり60年代の音というのを意識せざるを得ない以上、今聞くとやや音は古めかしい印象が残るか。
とはいえ完全にサイケに振り切れる直前でもあり、ポールを中心としたポップな曲の存在感が強いので、後の作品に比べると割とほのぼのしているアルバムという印象もあるし、そのポップサイドのエヴァーグリーンな響きに助けられている作品にも思える。歴史的には重要な作品だが過渡期の始まりを告げる一枚。かとなく秋の奥まった雰囲気を感じる。

REVOLVER

REVOLVER

・66年発表7th。サイケデリックに傾倒した一枚。同時にこの時期からライヴよりレコーディングを重視するようになり、録音技術を駆使した凝ったサウンドを指向していく事になる。それゆえに前作の朴訥とした感じは消え去り、全体的にタイトな印象を受ける。また明確にロックを演奏しているのも注目
ポップスというより明確に何かテーマやモチーフ、物語性を持った歌詞に、バンド演奏のみならずストリングスやホーンセクション、サイケ御用達ギミック、テープの逆回転などを積極的に取り入れ、サウンドの多様性は前作以上となった。この作品を聞いてアイドル時代の彼らを思い浮かべる人は少ないだろう
本作にあるのはビートルズというロックバンドの姿だ。変換点だった前作を経て、完全にアイドルから脱却をし、アーティスト(音楽家)として生まれ変わったと言っても決して過言ではない。その「出発」の一枚として、記憶されるべき作品だろうと思う。後期ビートルズの出発点として評価したいアルバムだ

Caution Radiation Area (Jewelcase)

Caution Radiation Area (Jewelcase)

・74年発表2nd。イタリアンプログレ界きっての異端児。前作の作風に引き続き、中東から続く地中海サウンドに超絶アンサンブルのジャズロックと前衛音楽的なノイズが絡み合う、一般にイメージされるイタリアの風景より土着的な印象と煮えたぎる危うさと暑苦しさを感じる作品。まさしく複雑怪奇な音
とはいっても、前作の初期衝動的な勢いよりかは音は洗練されており、バンドの持つ強烈な印象(主にVoが与えているものだが)に対して存外緻密で計算高い、構築された演奏は聞けるのはいいギャップになっている。この当時のアメリカなどで聞けるクロスオーバーサウンドに引けをとらないクールな演奏だ
怪人ボーカリスト、デメトリオ・ストラトスの塩辛い熱気とテクニカルなジャズロックに、地中海の呪術的な怪しい雰囲気を醸し出す電子音ノイズが絡み合うと、イタリアでしか成立しないような闇の深い、唯一無二なサウンドになるのが面白いところ。前作に引き続き、彼ららしさが際立つアクの強い良作。

Crac! (Jewelcase)

Crac! (Jewelcase)

・74年発表3rd。恐らく全ディスコグラフィ中、最もキャッチーなアルバム。それゆえに最高傑作の呼び声も高い一枚。というのも過去2作にあった前衛色が薄く、おなじみの地中海サウンドにクロスオーバー、ジャズロックに重点を置いているので、テクニカル路線を貫いている作品とも言える。
もちろん彼らのアルバムを比較した中での聞きやすさなので注意は必要だが、音の肌触りは初期のWeather ReportやReturn To Foreverのようなサウンドをよりテクニカルにした作品で、そこにイタリアの熱き血潮を混ぜたような暴走アンサンブルが非常に聴き応えがある。
全体にバンドの特徴を上手く整理し、構成されているアルバムでクセを残しつつも、彼ららしさはしっかりと出している作品だ。デメトリオ・ストラトスのVoも健在だが、それでもテクニカルなインスト重視という印象が強く、これまでのダークで呪術的な趣も薄らいでいるも要因の一つだろう。初手にお勧めの名作。

Maledetti (Jewelcase)

Maledetti (Jewelcase)

・76年発表4th。前作のキャッチーな作風から一転、フリーキーなサウンドに傾いた作品。一番取っ付き辛いアルバムだろう。アヴァンギャルドサウンドではあるが、ファンキーなジャズロックの要素もかろうじて残っているのでまったく聞けないわけではないが、アプローチの自由度が格段に上がった。
フリージャズ的なインプロ、クラシカルなストリングス、人の咀嚼音や喋り声、飛び交う電子音ノイズ、そこにデメトリオ・ストラトスアナーキーな感性がコラージュされた、ジャズロックが鳴り響く。大衆受けなどまったく考慮しない、ひたすらにバンドの音楽性を追及した結果、尖がった物が完成した印象
この振れ幅の大きさが彼らの個性でもあり魅力でもあるが、いかんせんアクの強さとクセの強さにおいては随一のアルバムだろう。こういった前衛の中にコミカルさを感じるのにはフランク・ザッパ的な趣もあるが変態度はこちらの方が上手のような気もする。出来は悪くないが聞き返す頻度は低めな一枚。

1978(紙ジャケット仕様)

1978(紙ジャケット仕様)

・78年発表5th。デメトリオ・ストラトス在籍最終作(発表後脱退、その1年後白血病で死去)。原点回帰とでも言うべきか、地中海(ブルガリアン)サウンドを前面に押し出した作品。その一方でメンバーの脱退などもあり、サウンド自体はコンパクトにまとまった印象のある作りとなっている。
ジャズロックというよりは、そこから洗練されたフュージョンといった趣で彼らの全作中、もっとも軽やかなイメージの強い作品に仕上がっており、ギターよりもピアノやシンセの音が中心になっているのもこの盤のソフトな印象を与える一端となっていると思われる。より民族的でジャジーな音が鳴り響く。
かつてなく洗練された音に聞こえるのは時代の変容も恐らくはあるだろうが、なによりロック色があまりないせいにも思える。フリーキーだった前作の方向性も踏まえると、本作は再びタイトに引き締めたものなのだろう。比較的に聞きやすいが、インパクトの面ではやや他の作品に劣り、惜しさの残る一枚だ