音楽鑑賞履歴(2019年1月) No.1292~1298

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
7枚。
調子が上がりませんね。いろいろとネット上のタスクを自分で増やしてるせいなので、致し方ありません。

今回から2019年、はてなBlog移行後の鑑賞分となります。なもので、一発目がマーヴィン・ゲイなのも、ブログの看板替えが影響したチョイスです。70sソウルが多目な鑑賞履歴になっています。今年も楽しく聴いていきたいなと思います。また今年から試験的にSpotifyの埋め込みも添付してみることにします。面倒になったらやらなくなるかもしれませんが、試聴できるようになればいいなと思いまして。またストリーミング解禁されていない作品についてはリンクを貼っていませんので悪しからず。

というわけで以下より感想です。


What's Going on

What's Going on

・71年発表13th。いわゆるニューソウルの歴史的な一作。泥沼化したベトナム戦争を背景とした反戦的なコンセプトアルバムでもある。当時のモータウンにおいては異例のセルフ・プロデュース作品でもあり、ブラックミュージックひいては社会問題にいたるまでさまざまな角度からのテーマを内包している。
シングル主体のレーベルでもあったモータウンにおいて初めてアルバムという作品形式を強く意識した嚆矢であり、マーヴィン・ゲイの問題意識がそこかしこに滲み出たアルバムだが、そこまで小難しくはなく、感じられるのはその官能的ともいえる「愛」を密に伝える内容だ。
彼の出自が牧師の家庭というのもあり、戦争や当時のアメリカ社会問題などに対してひたすらに「愛」を説く。サウンドもそれに呼応して、A面B面ともに曲間がシームレスにメドレーで流麗に繋がっていく構成なのもそれぞれが単一の問題ではなく、全てが繋がっている事を示しているように思う。
深刻な問題を愛で包み込んでいくというのは絵空事かもしれないが、そのマーヴィン・ゲイの真摯な語りが、シルキーなストリングスと滑らかなバンド演奏によって、甘美な響きとなってあっという間に過ぎていく。その美しさゆえに、問題提起の重みも強く意識するし、マーヴィン・ゲイ本人も真剣勝負である
そういった妥協しない姿勢が、普遍的なメッセージともなって歴史に残っているのではないかと思う。ちなみにモータウンとしては初の演奏クレジットがついているという点でも画期的な一作だ。特にベースのジェームズ・ジェマーソンは代表作といって過言ではない演奏を披露してくれている。
60年代末~70年代初頭を貫くテーマに「愛と平和」があるように思うが、そのテーマに対して、黒人の側からメッセージを発し主張するという点においてもそうだし、非常に真摯かつ真っ向から立ち向かった傑作だと思う。もちろんそういう主張を抜きにしてもサウンドも非常に素晴らしい一作だろう。



Killing Me Softly

Killing Me Softly

・73年発表4th。ロバータ・フラックの全盛期を伝える代表作。自作曲はないものの、全曲に渡って、編曲を彼女が手がけ、その上でストリングスやホーンアレンジをデオダードなどの当時気鋭のアレンジャーに一任している作り。バックはエリック・ゲイルやロン・カーターなどのジャズ畑の人材が並ぶ。
このアルバムは形容が難しい。当時のニューソウル(彼女はダニー・ハサウェイとも共演盤を作っている)を基調に、フォークやカントリーの要素も内包しているし、同時に演奏陣はジャズ・クロスオーバー勢なので、端正なプレイが印象的でもある。ロバータ自身もピアノで弾き語っているのでSSWっぽい。
一括りにしてしまえばニューソウルのアルバムなのだが、そのサウンドの全容の奥行きはかなり深い。先に言ったように、彼女はアルバム全体のアレンジを統括しているので、そこがまず特殊。そして選曲の妙もある。代表曲のひとつでもあるタイトル曲は元はドン・マクリーンが歌っている。
ほかにもジャニス・イアンレナード・コーエンなどの曲が立ち並び、ソウルフルな楽曲を揃えていないのが目を引く。3やユージン・マクダニエルズ作曲の5などがそれらしいが、その他の曲のソウルフルさを支えているのが他ならぬロバータの歌声であるのが興味深い。
絶妙なアレンジのなかでロバータの歌声がわかりやすく響くことを計算して構成されている点でもかなり作り込まれている事がわかるし、なにより聞こえてくる歌や演奏のとても心地のいいことは筆舌に尽くしがたい。最大の功労者はグランディ・テイトのドラムだろうか。キックの捌きが実に絶妙だ。
ソウルらしくないはずなのに非常にソウルに聞こえてくるというのがこの盤の不思議な魅力だし、なによりロバータ・フラックの柔らかでしなやかな歌声がずっと聞いていたくなる名盤だろう。多分R&B以外のファンにも受け入れやすい、エヴァーグリーンな一枚。改めて良さを実感した。


ファンキー・ナッソウ

ファンキー・ナッソウ

・71年発表1st。バハマ出身のバンド。タイトル曲は後に「ブルース・ブラザーズ2000」でエリカ・バトゥがカバーする一曲。ジャンカヌーというバハマ特有のダンスミュージックを奏で、マイアミで活動していた所を地元のレコードレーベルに拾われるという経緯で製作されている。
一聴しても分かるように、ノリのいいカリビアンなメロディが鳴り響く。マイアミという土地柄が影響しているのか、雰囲気は非常にナンパでチャラい印象のサウンドでもある。とにかくダンスホールなどの盛り場で流れる軽快でノレる音楽が詰め込まれたアルバムといって良いだろう。
反面、ファンクやソウルの粘っこいビートに感じられる重さは皆無で、トロピカルで細やかなビートのとにかく軽いダンスチューンが中心の構成で、タイトル曲の再生産的な楽曲が多く、一辺倒な嫌いもあるが楽しさは十分に感じられる佳作ではある。陽気ば雰囲気に浸りたい場合にはうってつけの一枚だ。

・69年発表3rd。ニューヨーク出身の女性SSW。当時22歳ながらも凄まじい迫力に満ちた、深遠な世界を見せつける一枚。基本、ピアノの弾き語りで装飾的にバンド演奏やオーケストラとストリングが重ねられているが、なによりも圧倒されるのはその歌声だろう。1曲目から咆哮とも言うべき歌唱には凄味がある
一体、どんな奥底から声を出しているんだろうかと思えるほど、爆発力のありパワフルな歌には確かに過度な装飾(アレンジ)はいらないだろう。実際、本作のアレンジは最大限にその力強い「声」を生かしたものであり、楽曲を彩るものに終始しているように思える。それほどにエネルギッシュなのだ。
同時に69年作でありながら、アルバムの纏っている空気はまさしく70年代のそれであり、SSWブームに先駆けてもいるが、なんにつけても激情ともいうべき歌唱はまさしく「魂の叫び」という他ない。ポップであるか以上にローラ・ニーロの剥き出しの感情に深く深く共鳴する一枚だろう。まさしく傑作。

Dawning of a New Era

Dawning of a New Era

93年発表編集盤。1stリリース以前の初期音源集。バンドがまだThe Specialsと名を変える以前のものであり1stに収録される楽曲が大半を占めるが、肌触りはまったく異なる。というより1stのエルヴィス・コステロのプロデュースは雑味が取られ、非常に整理された音であることがこれを聞くとよくわかる。
録音のミックスに弱さも感じるが、そのラフさの残る、すれっからしサウンドはルードボーイらしさがより感じられる。1stはきれいな服を着こなしている印象を受けるが、こっちらはだらしなく着こなしてる感じが返ってクールな印象。こちらの録音の方が素の彼らの雰囲気が漂っている。
このどことなく気怠い感じのスカは2ndやSpecial Akaのそれであり、全体的にジェフリー・ダマーズ色が強いといえるかもしれない。1stはもちろん名盤だが、そのダイヤの原石をそのまま聞いているような、そんな一枚。いろいろ興味深いし、この盤にしかない魅力やカッコよさが滲み出ている良盤だろう。


Writer

Writer

70年発表1st。ジェフリー・ゴフィンとの離婚から2年経ち、その間組んでいたシティというバンドを発展期解消させたのか、メンバーがそのまま参加したソロデビュー作。収録曲は書き下ろしも含み、ほとんどキング=ゴフィンの共作。ミキシングもゴフィンが担当している。
大ブレイク作となる次作とはかなり趣が異なる。というより60sアメリカンポップスにカントリーや、スワンプだったり、ソウルだったりとかなり雑多なサウンドが繰り広げられており、興味深い。他アーティストに提供した曲のカバーもあり質感としてはかなりポップだ。
翻って考えてみれば、「清算」のアルバムなのだろうと思われる。60sのアメリカンポップスを彩ったキング=ゴフィンという稀代のコンビはもはや無く、ソロアーティストとして踏み出す第一歩としての彼女なりの60年代の清算。今聞けば古き良きオールディーズではあるが、そういう決意のあるものに見える。
事実、次作において彼女は再び「時代」をつかむ傑作を生み出すわけだが、その背後にはソングライターとしての過去と履歴がぎゅっと押し詰められているわけである。この清算をした下地があってこそ、彼女の70年代が始まるわけだが、60年代を総括している点からこそ、こちらも良作と言える一枚だろう。


ウインカー【通常盤】

ウインカー【通常盤】

16年発表8th。復帰第二作。前作の猟奇的プログレ路線は鳴りを潜め、より演劇性の高い従来のラウドロック色が押し出された一枚。今回は静と動のコントラストの落差が激しく、メランコリックなサウンドラウドロックの成分と混ざり合い、得がたい質感の内容になっている。
アルバムタイトルの「ウィンカー」よろしく、この作品に出てくるコンセプトキャラ、荒井田メルを初めとして、不可逆な可能性について言及しているように感じた。コンセプトアルバムとはいえないが、明確に何かのテーマに沿って、可能性をポジティヴに酸いも甘いも含めて、描かれる歌詞と演奏は染み入る
大槻ケンヂのこれまでの音楽活動から滲み出たメッセージがこのアルバムの演奏の素晴らしさと比例して、なにか垢抜けた印象すら持つ、会心の出来だろう。前作の腰をじっくりすえた作りから、軽やかにステップを踏んでいる一枚。シングル曲のキャッチーさも相まって一皮剥けたような名盤だろう