音楽鑑賞履歴(2020年5月) No.1376~1381

月一恒例の音楽鑑賞履歴。

6枚。最近では聞けた方ですね。
4月末からほぼ5月いっぱいの緊急事態宣言を経て、予断は許さないけど徐々に日常が、以前の形ではないにせよ、戻り始めてきているこの頃。自分はまあ、仕事も日常もあまり変化はなかったのですが(苦笑。それはともかく。今年上半期はコロナショックの影響があって、ぽっかりと穴が開いた感じになっていたのがようやく「今年度」が始まったような、変な感覚に陥っています。まあ、なんにせよ色々ありますが、世間が良い方向に向かえる、日々を平穏に過ごしたいところ。
5月はなんとなくチル&サイケな趣です。ドゥルッティ・コラム特集といいますか、そんな感じです。毎回言ってますがもう少しペースを上げていきたいですね、時間をうまく使いたい…。

というわけで以下より感想です。


Room on Fire

Room on Fire

  • アーティスト:The Strokes
  • 発売日: 2003/10/28
  • メディア: CD

・03年発表2nd。前作の録音よりも音がクリアになった感はあるが、空間の捉え方が前作よりも騙し絵的に妙な配置の仕方をしている印象がある作品。楽器やボーカルの鳴りを意図的に配置を偏らせたり、ドラムを強調したり、演奏の一体感より凸凹感が強調されているように聞こえる。妙な酩酊感がある音。
曲によっては不思議な遠近感があり、時には上下左右の境が曖昧になって、無重力空間で演奏しているような感覚に陥るのには、ある種のサイケさを感じるか。演奏自体は前作に続きシンプルな分だけ、サウンドミックスのいじくり方が前作以上に変なんじゃないかとも思える。統一感よりも分散感が強い。
あえて、ガチャガチャしたサウンドにしているのがアングラ的というか、バンドサウンドの洗練という所から背を向けているようにも思えるし、シンプルなサウンドから来る快楽性みたいなものも、なにか切り離された感もあって、早くもバンドの実像を掴ませない方向に舵が切られた一枚ではないかと。



Join With Us

Join With Us

  • アーティスト:Feeling
  • 発売日: 2008/04/08
  • メディア: CD
08年発表2nd。クイーンや10ccなどなど70年代の英国ポップの趣を現代的なものにアップデートしたバンドの第二作。ピアノとコーラスによってポップに響かせる作風が発展して、楽曲によってはシンセやエレクトロニクスを導入して、よりトレンディなサウンドを志向した内容となっている。
英国ポップらしい、分厚いメロディラインをコーラストとも煌びやかに響かせる作風は健在で、重厚なポップサウンドが楽しい作品である一方で、前作以上にアッパーな印象が強く、その狂騒さを過剰と捉えるかどうかで評価は分かれてきそうだ。バンドとしての試行錯誤が見え隠れし、二作目の難しさも滲む。
派手なサウンドとは裏腹に、クラシカルといっていいほどにポップスマナーに忠実な作風なのでむしろ余計な装飾がいらないとも思えるほど、土台はしっかりしている。でなければ、アルバムラストの8分超のポップソングを退屈させることなく聞かせられないだろう。装飾過多な嫌いがあるが王道的な佳作だ。


LC

LC

  • アーティスト:Durutti Column
  • 発売日: 1998/06/30
  • メディア: CD
81年発表2nd。70年代末から今に至るまで、息の長い活動を続ける、ヴィニ・ライリーの音楽ユニット。ポストパンクとネオアコの境を行くような、ディレイエコーのかかったシンプルなギターフレーズと簡素なリズムによって構築される音世界は唯一無二といっていい内容であり、他の追随を許さない。
真似しようとも真似できない独特なセンスが全面に漂う作品であり、同時期のポストパンク勢とも一線を画すサウンドで、後にネオアコと呼ばれる一連のグループともニュアンスが違っているのが最大の特徴だろう。そのどちらにも寄らない、きわめて醒めたトーンが全体を包み込んでいる。
感傷や哀愁を廃した、無感情かつ冷ややかなギターサウンドは後の世には「アンビエント」や「チルアウト」とも形容される類のものであるが、当然狙ったというわけではなく抽象的な心象を映し出したものに過ぎない。情感のなさによって語らうことを音楽とした特異な良作だろう。我が道を行く骨太な一枚だ


Someone Else's Party

Someone Else's Party

  • アーティスト:Durutti Column
  • 発売日: 2003/06/03
  • メディア: CD
03年発表13th。初期のディレイの深さは鳴りを潜め、反面、楽器の鳴りやメロディのふくよかさが増しているような印象を受ける一作。ある種、インテリアミュージック的でもあるが、ワールドミュージックな要素や女性ボーカルを起用したりと、初期と比べると作風に変化をつけているのが特徴的か。
調べると当時亡くなったヴィニ・ライリーの母親に捧げられたアルバムで、製作状況などからプライベートな響きを持つアルバムである一方で、アルバムの統一感には欠ける印象を持つ。散文的というか、楽曲ごとにおそらくテーマがあり、完結している分、全体を眺めると物憂げなトーンのみが漂う作り。
それが母の死というものに影響を受けているのか定かではないが、とりとめないイメージの中で漠然と死を受け入れいく戸惑いみたいなものが感じられる。内省的な内容であるだけに、心の揺らぎもダイレクトに伝わってくるようなアルバムで、その点においてはディスコグラフの中でも一線を画す一枚なのかと


Keep Breathing

Keep Breathing

  • アーティスト:Durutti Column
  • 発売日: 2006/03/07
  • メディア: CD
06年発表15th。いつになく開放感のある内容の一枚。ヴィニ・ライリーのギターも従来の無機質さよりも、情感や人間味のある演奏となっており、リズムシーケンスに乗っかったプレイスタイルはそのままに生っぽい感触が取り入れられている印象が目立つ。死のイメージが漂う前々作に対し本作は生を感じるか
楽曲タイトルも人の名前や、日常的なタイトルが多く、アルバムタイトルも「呼吸し続ける」という意なので、積極的に日々の生活をモチーフにした内容なのだろう。どこか突き放した印象、あるいは人間嫌いな偏屈さがあったサウンドがここに来て、自らを含んだ周囲の生活へと目が向いているように思える。
けして暖かい感情があるわけではないが、全体的なフィーリングは朗らかというか、ネガティヴよりポジティヴな方向へと傾いていて、心境の変化が現れているように感じる一枚か。アコースティックギターの多用から来る地中海的なメロディもいい塩梅だ。やや冗長に過ぎる面もあるが良作アルバムといった趣


Wildflower

Wildflower

  • アーティスト:The Avalanches
  • 発売日: 2016/07/08
  • メディア: CD
16年発表2nd。伝説的な1stアルバムから16年ぶりの新作。今回も全編サンプリングという狂気的なトラックメイキング(版権取るのにかなりの時間を要したそうだが)を達成している。前作のひんやりとした印象の内容とは変わって、比較的にドリーミーなポップサウンドが繰り広げられている。
ドリーミーなサウンドやモンド感の強い肌触り、それこそサイケといっていい全体の趣からは、非常に1960年代を思い起こす。そこに現代的なMIX感覚とラップが織り交ぜられて、2016年の作品であることを押し出しているが、やっている事自体はは1stの出た2000年ごろとあまり変わりがないようにも感じるか。
60'sサウンドをサンプリングによって再構築する感覚はタイムレスながら過ぎ去った、あるいは経験していない時代への憧憬にも聞き取れるか。少し後になって、タランティーノが「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を撮ったように、あの熱狂と喧騒の時代に「IF」を重ねているようにも感じる
現代にないものを過去に求めてしまうのはある種のノスタルジーでもあるけど、そこから新たに掬い取れるものを拾って、時代の先へと繋げていく。そんな温故知新的な感覚もありながら、取り纏められた作品のように思う。16年の歳月が積み重なっているだけの時を超越した音楽がこのアルバムに詰まっている