音楽鑑賞履歴(2020年4月) No.1372~1376

月一恒例の音楽鑑賞履歴。

4月、新型コロナウィルスに対しての緊急事態宣言が発令。
社会や人の動きが停滞し、なんだか日々の暮らしも次第に気分がどんよりしていきました。
GWを過ぎた今、緊急事態宣言の延長が表明されて、各所に大きな影響が出ることが懸念されています。
しかし、自分の身としては変化ないというのも何か変ですが、慌しい中で気持ちが滅入りながらも何とか過ごしてる感じです。
4月の鑑賞は5枚ですが、なんやかんやで聞けた方ではないかと。
今後、今のような状況がいつまで続くかわかりませんが、どうにかこうにか様々な事を気に掛けながらも、乗り越えていければいいなと思いますね。

というわけで以下より感想です。


MSB(期間生産限定盤)

MSB(期間生産限定盤)

80年発表1st。ジャズシーンのみならず、TV・映画・アニメ、クラシックなど多岐にわたる分野に活躍するピアニスト、佐藤允彦がクロスオーバー/フュージョン華やかなりし時期に結成したバンド。後にマライヤ、渡辺香津美バンドなどで活躍するSaxの清水靖晃やDrの山木秀夫が参加していることでも知られる。
内容も佐藤よりも若い世代である清水・山木、そしてBの高水健司をフィーチャーしたものとなっていて、彼らの鮮烈な演奏が印象的なものとなっている。当時20代であった彼らの溌剌とした丁々発止な様子に佐藤が触発されて、応酬する格好となっていて、熱気を感じられる好内容といえるだろう
当時の海外グループなどにも引けをとらないレベルの、クロスオーバーフュージョンであり、佐藤のジャズメンとしての素養が、きっちりと歴史の流れに結びついて提示されているサウンドだろう。全体としてスローナンバーの雰囲気に日本らしさが漂っているか。国内クロスオーバーフュージョンの良盤だ。


81年発表2nd。最終作。前作の清新な演奏から、よりアンサンブル度を高めた演奏が聴ける。当時気鋭のミュージシャンを紹介する向きも強かったバンドでもあったが、本作ではさらに発展し佐藤允彦をメインとしたバンドの一体感を増した様子が伝わってくる。演奏のまとまり度合いではこちらに軍配が上がる
フュージョンというよりはクロスオーバーといったほうが相応しい内容で、ジャズの延長線上にあるサウンドで、軽やかというには重みがあり、同時にジャズらしい陰影の濃い感触はフュージョンの煌びやかさには及ばない、鈍い光沢を放っているように思える。音の感触は当時らしくもあるが。
81年だとウェザーリポートが4ビートのジャズに回帰したりしていた時期ではあるが、そういったジャズへの先祖返りとフュージョンブームのハイテクサウンドの中間点、それらが絡まり合った内容なのはリーダーの佐藤のセンスとMSBの面々の若さが巧く融合した結果だともいえる。
70'sクロスオーバーサウンドを髣髴とさせている一方で、音の淡い感じや楽曲トーンの薄墨な印象は日本ならではといった風でもある。演奏は前作より複雑さを増しているが、儚さがイメージに思い浮かんでくるのはこのバンドの独特さなのかもしれない。本作が最後になったが目指す場所に到達している良盤だ


オン・マイ・ワン

オン・マイ・ワン

16年発表3rd。初めてのセルフプロデュース作にして20代最初の作品。前作までのギターを軸としたアコースティック&バンドサウンドに、打ち込みやエレクトロニクスといった新機軸を打ち出し、楽曲の幅を意欲的に広げてきた感のある一枚か。従来のSSW的なサウンドも見せているので、指向にブレはなさそう
デジタルな打ち込みを下手に入れて、従来の作風とはそぐわないものになるアーティストも少なくはないが、ジェイク・バグの場合はそこがかなりシームレスに絡み合っていて、デジタルネイティヴらしい感覚で捉えているようにも聞こえる。アナログとデジタルが同居した音というか。
アコースティックの良さをしっかりと掴んだ所でまた別軸でデジタルな質感の面白さも提示したり、この二つを混ぜたりもする。元々のソングライティングの良さもあって、アレンジが様変わりしても聞けてしまえるのも大きいか。そのあたりの若さと柔軟性がとても機能した内容となっている。
単なるフォークやカントリー、スキッフルサウンドを演奏するレトロ趣味の若者というイメージを払拭するように、きちっと現代的なアレンジを織り込んだ点でも、伝統と流行がちょうどいい塩梅で交じり合った作品なのではないだろうか。楽曲の自由度を得た点では意欲的な成長作という趣の一作だ。


16年発表OST。同名ショートアニメのサウンドトラック。今年20年に実写映画が公開予定だが、本アルバムは原作でコミカルに描かれるクラブDJの世界を上手く抽出した物となっている。正味30分にも満たない内容だが中身はとんかつの様に作品の旨みをぎゅっと凝縮したミックステープの趣でとても楽しい。
カクバリズム所属のMU-STARSメンバー、藤原大輔の作るトラックは、各キャラのDJプレイを意識したトラックメイクをしており、中にはとんかつ屋のキャベツを切る音などをサンプリングしていたりと、細部にまで行き届いた作り。それでいて、現代的なクラブで流れてきそうなものにきちっと仕上がっている。
キャラクターの特色を生かした各トラックもバラエティが良く出ていて、アルバムを通じて聞くとクラブパーティを疑似体験できるような作りにもなっていて、短い内容ではあるがしっかり中身の詰まっている。その聞き応えは十分すぎるほど。原作の可笑しさも忠実に再現しているサントラ名盤だ。素晴らしい


Morning Phase

Morning Phase

  • アーティスト:Beck
  • 発売日: 2014/02/25
  • メディア: CD
14年発表9th(通算12作目)。前作より実に6年ぶりの新作。第57回グラミー賞で「最優秀アルバム賞」「最優秀ロック・アルバム」、「最優秀エンジニア・アルバム」の三部門を受賞。14年のベストアルバムとの評価も名高い作品。事実「Mutations」以来、開拓してきたSSW路線の集大成、という向きを強く感じる
ミッドテンポで、ストリングスやアコースティックの響きを空間的に捉えている内容だが、同路線の作品と比べると洗練の極みというか、ひたすらにハイ(アッパー)な印象を受ける。かつてのダウナーにのた打ち回って停滞する姿はなく、なにか開放感に満ちた音が繰り広げられている。まるで福音の如く響く。
聞いている感覚としては、ゴスペルや聖歌に耳を傾ける厳かなイメージが思い浮かぶ。アルバムのタイトルの通り、朝のまばゆくも淡い陽の光を浴びているような穏やかな心地で聞く楽曲群が立ち並んでおり、1~10曲目までが一繋ぎのコンセプトで結ばれている構成で11曲目以降の流れとともに秀逸な作り。
今まで、ベック・ハンセンという音楽家に抱いていたシニカルで斜に構えた感覚が抜け、ある種達観した楽曲となっており、それこそかつて60年代カリフォルニアの音楽シーンを席巻していたヒッピーカルチャーやフォークソングの流れをまさしく継承する形で見事に昇華した内容に聞こえる。
それゆえの生みの苦しさが当然あった作品だと思うが、あの時代を生きた人間の夢想しただろう、理想郷的な音世界が形となって提示されているだけでも、芸術品として完成度が高いと言えるし、後の時代に生まれたベック・ハンセンがそれらを汲み取って、現代の音としてアップデートした所が重要なのかと。
楽家としての洗練と、時代の遺伝子を受け継いで作り上げられた傑作に間違いなく、内容的にもキャリア・ハイを記録した、ひとつの果実が見事に成熟した事の窺える一枚だ。まさしく集大成。