音楽鑑賞履歴(2020年2月) No.1365~1370

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
今月は7枚。最近の中では聞けた方ですね。
この所、Spotifyなどではブルースなどをちょいちょい聴いている感じですが、今回は60年代中ごろ~70年代初頭の作品が多かった感じですね。
ソウルミュージックが主です。図らずも当時の黒人公民権運動の渦を感じさせる作品ばかりになりましたが、当時の熱気が凄かったのが作品にも表れているのだなと興味深い鑑賞になりましたかね。
3月に入り、気候もだいぶ暖かくなってきましたが、新型コロナウィルスの影響が世界全体に波及していて、予断を許さない状況が続いてます。各自、体調に気をつけて、日々を過ごしたいものですね。
というわけで以下より感想です。


Other Voices/Full Circle

Other Voices/Full Circle

  • アーティスト:Doors
  • 発売日: 2015/09/04
  • メディア: CD
※以下の二枚はこちらの2枚組コンピレーションのレヴューとなります



71年発表7th。ジム・モリソン死去直後、残されたメンバー三人で製作されたアルバム。前作「L.A. Woman」から引き続きスワンプ色の強い内容で、ホンキートンクさやシカゴブルースのシャープな趣も感じられるサウンドに仕上がっている。演奏だけを抜き出して聴けば、脂の乗ったプレイが最良の形で聞ける
ただ惜しむらくは、やはりジム・モリソンの不在というファクターが非常に強いことか。あの存在感のある歌声を知っていると、レイ・マンザレクとロビー・クリーガーの歌う本作楽曲は一枚も二枚も落ちてしまうのは致し方ないところではある。無論二人のボーカルが目に見えて下手というわけではないが。
収録曲自体はジム・モリソンの死を感じさせない、バンドの新たな船出を感じさせるものなだけに、返ってその存在を強く意識をせざるを得ないものになっているのが最大の不幸というべきか。別の名のバンドとして再出発していたら、そういう印象も拭えたのではないかと思わずにいられない。
ただ、残された彼らはThe Doorsとして活動を続けることを選択した。ジム・モリソンという十字架を背負い、乗り越えようとした結果がこの作品であるならば、それはそれで再評価しうるものなのではないかと感じられる。長い間陽の目を見なかったが、現代でも聞くに堪える内容の良作と言えるだろう。




72年発表8th。ラストアルバム。作曲クレジットからも分かるように、ギタリストのロビー・クリーガーがイニシアチヴを取った一作で彼の才覚が開花した内容。初期のサイケデリックな作風や後期のスワンプ色の濃いサウンドとは打って変わって、中期の「ソフト・パレード」の作風を発展させたような音作り
後期の泥臭さと合わさって、ソウルフルでファンキーなサウンドが最大の特色だ。前作にわずかながら残っていたジム・モリソンの影形はなく、ロビー・クリーガーの音楽センスとギターが全面的に押し出された、レアグルーヴ的な趣も感じられる。この路線でバンドが続いていたのなら、というIFも尽きない
しかしここでも付きまとうのはThe Doorsというネームバリュー。同時期に出たベストアルバムが本作の売り上げを上回ってしまうという憂き目に会い、ジム・モリソンの存在をバンドイメージから払拭できないと悟ったメンバーは解散の判断を下すこととなる。
そういった事情を抜きにすると、本作はジム・モリソンやレイ・マンザレクの陰に隠れがち(それでもバンドのヒットソングはロビーの手によるものが多い)だったロビー・クリーガーがミュージシャンとして頭角を現した一作であり、とても聴き応えのある一枚で、「隠れ名盤」といっていい出来のアルバムだ
またそんなロビーのギターが全編に渡って鳴り響くアルバムでもあり、The Doorsの解散後、ギタリストとしての評価が高まるのも頷ける。The Doorsの最終作として、有終の美を飾っているわけではないがメンバーが次への第一歩を踏み出そうとしてる点で価値のある良盤だろう。


ハーレム・スクエア・クラブ1963(期間生産限定盤)

ハーレム・スクエア・クラブ1963(期間生産限定盤)

85年発表ライヴ盤。1963年、サム・クック32歳のエネルギッシュなパフォーマンスが聞ける、未発表ライヴ音源。当時録音されるも、レコード会社の上層部からスタジオ音源から受ける印象とあまりに違うと1985年まで塩漬けにされていたもの。しかし、流れてくる音は非常に熱気のこもった歌と演奏。
当時白人にも人気のあったシンガーで品行方正なイメージを求められていた、という状況がある中で本作の録音はハーレム・スクエア・クラブ、南部の黒人クラブでのライヴであり、ある種ホームグラウンドな場で披露されている音源だといえる。勝手知ったるなんとやらで、荒っぽくやんちゃな歌という印象だ
演奏も、キング・カーティスコーネル・デュプリーなどの名手を揃えつつ、彼が徐々に見せていたゴスペル指向を滲ませたソウルフルなステージングで、演奏・歌唱ともに63年という時代を考えるとあたかもガレージパンクのような勢いも感じさせる、ワイルドで力強いうねりが伝わってくる。
黒人の公民権運動という大きな渦中にあった当時の熱っぽさもあり、そういった運動にコミットしていたサム・クックや黒人たちの勢いがこのステージの熱気からもひしひしと伝わってくる内容だろう。それを抜きにしても、ただただ力強く響くソウルミュージックの傑作ライヴ音源として記憶したい一枚だ。


Hold on I'm Comin

Hold on I'm Comin

  • アーティスト:Sam & Dave
  • 発売日: 2006/01/31
  • メディア: CD
66年発表1st。サム・ムーアとデイヴ・プレイターから成るソウル史上屈指のデュオ。NYのレーベル、ルーレットからデビューするものの芽が出ず、メンフィスのスタックス・レコードに移籍して、発表されたデビューアルバム。サザン・ソウルのお手本と言わんばかりのシャープなソウルナンバーが立ち並ぶ。
楽曲は当時スタックスの専属スタジオミュージシャンだった、24歳のアイザック・ヘイズと25歳のデイヴィッド・ポーターがほぼ全面的に手がけており、演奏はスタックスのハウスバンドとして知られるMG'S、というこの上ない面子。そこへ二人の息の合ったソウルフルな掛け合いが入るのだから悪いわけがない
アル・ジョンソンのタイトなビートによるジャンプナンバーが非常に魅力的だが、一方で絶妙に配置されたバラードも切なく響き、シンプルに感情が伝わってくるのが堪らない。無駄なものを感じさせない、シンプルな力強さがわずか31分ほどのアルバムの内容を濃くしているように思う。ソウルの王道にして傑作の一枚


ダブル・ダイナマイト

ダブル・ダイナマイト

66年発表2nd。前作より8ヶ月後というハイペースなリリースだが、内容は堅調な一枚。本作もアイザック・ヘイズ&デヴィッド・ポーターのソングライターコンビがアルバム楽曲の半数を占め、このデュオを支える。サウンドのシャープさが抑えられた一方で、ミドルテンポでしっかりと歌い上げる楽曲が多いか
録音チャンネルがきっちりとヴォーカルと演奏で分けられた、当時らしいミックスになっている為、ヘッドフォンなどで聞くと分離過ぎてるように思えてしまうのはやや惜しいか。内容的にジャンプナンバーはほとんどなく、シンガーのソウルフルな歌唱に比重を置いたものな分、前作のようなインパクトはない
しかし、シングルカットされたバラード曲の4を始めとして、サム&デイヴというデュオの実力を浮き彫りにし、じっくりとかみ締めることのできる一枚かと思う。アルバムタイトルが彼らの異名から取られているように、前作では見せられなかった面を存分に披露した深化の一作だろう。演奏が良いのはもちろん言うまでもない。


Soul Men

Soul Men

  • アーティスト:Sam & Dave
  • 発売日: 2014/11/04
  • メディア: CD
67年発表3rd。前作から10ヵ月後のリリース。これまでのアルバムの中で一番、ヘイズ&ポーター楽曲が少ない一方でスティーヴ・クロッパーやブッカー・T・ジョーンズなどMG'sメンバーを始め、スタックスのバンドマンがこぞって楽曲を提供していていて、バラエティに富んだ構成となっている。
1stの溌剌さと2ndの腰の据え方がちょうどいいバランスで共存している作品という印象で、ハイペースなりリースながら、このソウルデュオの熟達がパフォーマンスにもよく表れている。彼らの代表曲のひとつで、タイトルソングである1は当時の公民権運動に影響されたことでも有名な一曲。
演奏も録音も日々進化していく時代の中で、音が洗練されていき、楽曲も複雑化の一途をたどっていく事になるが、この盤に収められた歌や演奏は力強くシンプルに響く。60年代の熱気と激動の中で、ソウルフルな曲もバラードも聞く者の心を捉えて離さない、二人の歌とMG'sたちの演奏が完全無欠な傑作だろう


Pastel Blues

Pastel Blues

  • アーティスト:Simone, Nina
  • 発売日: 2006/02/14
  • メディア: CD
66年発表10th(通算15作目)。ジャズシンガーにして市民運動家としても知られる、ニーナ・シモンのアルバム。当時の黒人公民権運動の渦も感じられるか。まず何よりもとにかく「歌」であり「声」のアルバムという事が前面に押し出されている。その深く野太い声は呻きのような歌となって、耳に襲い掛かる
バンドの演奏も、彼女の歌をこれ以上なく活かそうとするため、収録曲の中にはハイハットのみの伴奏で主役を見事に引き立てているものもあるほど。それだけ「声の存在感」は作品の大部分のウェートを占めている、という事の証なのだが、実際その歌声は魔術的な魅力を秘めているといえる。
このアルバムのハイライトはなんといってもラストの10分もの大曲となっている「Sinnerman」。トラディショナルソングであり、後に映画やドラマなどに取り上げられる一曲だが、彼女の呪術的かつスピリチュアルなボーカライズがいっそう魅力的なものへと昇華させている。体感時間はあっという間だ。
当時の黒人公民権運動へのメッセージソングとしての意味合いがかなり強い、曲の取り上げ方で「I cried, power(Power to da Lord)」の「Power」の部分が強調されている事からもわかるように、公民権という権利を強く求めているようにも聞こえる。そういった怒りと願いが込められた名演だろう。
他の楽曲(スタンダードなど)も、彼女の呪文にも似た歌声によって、新たな魅力が付加されたものとなっており、その深い歌声のインパクトは絶大だろうかと。「Sinnerman」一曲だけでも聞く価値のある一枚であり、ジャズという枠に限定されない、濃縮された黒人音楽が聴ける作品だ。