音楽鑑賞履歴(2019年10月) No.1346~1355

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
10枚。最近のペースにしてはよく聞けた感じですね。個人的にはもうちょっと聞きたいけども。
10月はスライ&ザ・ファミリー・ストーン&ウェザー・リポート特集でした。
特にスライは今まで聞いてこなかったのでわりと新鮮に聞けた感じですね。
台風などいろいろな事が10月中に通り過ぎていって、いつの間にやら気温もだいぶ下がって、上着を着るくらいには寒さが出てきましたね。
気づけば今年も年末に差し掛かって、一年が過ぎ去っていくのが年々早くなっていっているようにも思えます。
なんだか色んなものに押し流されていきそうでもありますが、しっかりしがみ付いて日々をすごしたいです。
というわけで以下より感想です。


CHAOSMOSIS

CHAOSMOSIS

  • アーティスト:PRIMAL SCREAM
  • 発売日: 2016/03/18
  • メディア: CD
16年発表12th。前々作に参加した、ビヨーン・イットリングを再び起用した作品で、サウンドもその「ビューティフル・フューチャー」を踏襲した、80年代オマージュ的なエレクトロポップ路線に向かったものとなっている。「スクリーマデリカ」の再来なのかと問われると明確にノーであり、趣はかなり異なる
というのも、このアルバム自体はビート主体というよりは非常にメロディと歌を前面に押し出している内容であるからだろう。シンセの人工的な儚さに包まれた、刹那的なメロディがこのアルバムのトーンであり、ビートはそこに携えるものととしてしか機能してない印象を受けるか。
その点ではポップマナーに遵守した作品であり、目新しさはないのも事実であるが、歌ものへとシフトしたのは年かさを重ねた結果のオーソドックスへの回帰のようにも思える。枯れて老け込むにもまだ早いがほんの少しクラシカルに攻め入ったアルバム、なのかもしれない。煌びやかの中に熟練を感じる一枚か



ディスタンス・インビトウィーン

ディスタンス・インビトウィーン

16年発表6th。活動休止期を挟み、オリジナルアルバムとしては6年ぶりの新作。バンドとしても、新メンバー(元ズートンズのギタリスト)を加え、名実ともに第二期の船出となった感のある内容。原点回帰といえるのかどうか、彼ららしい神秘的な響きを帯びたサイケサウンドを重ねてきた年輪で奏でている。
本作は下手に作りこまず、録音もほとんど一発録りのラフなタッチで作られており、彼らにしては比較的ロックサウンドに寄ったサウンド。1stの複雑怪奇さはないが、味わい深い。特徴的なのは今まで、オルガンやメロトロンといった鍵盤のバリエーションにシンセサイザーが明確に加わっているところか。
最新のものというよりは、アナログシンセっぽいのが彼ららしいところではある。しかしシンセの導入が思いの外、功を奏しているように思う。もともとアナログでトラッドな感覚の神秘性が魅力だったわけだが、シンセが加わったことで、味わいそのままにわかりやすさが増した印象を受ける。
経年による洗練と熟練の上に、新味を加えながら改めてサイケを演奏しているのは、シンプルな素描のタッチも相俟って、ベテランらしい熟成度の高さも感じさせる。若々しい勢いは失われど、バンドの旨味を深く感じさせるアルバムではないかと。復帰作ながら気負いのなさがらしく思える一作だ。


Whole New Thing (Exp)

Whole New Thing (Exp)

  • アーティスト:Stone, Sly
  • 発売日: 2007/04/17
  • メディア: CD
67年発表1st。JBとともにファンク・ミュージックを開墾したスライ・ストーン率いる人種混交バンドの初作。後にサイケデリック・ソウルとも呼ばれる独特の音楽性は萌芽程度に収まっているが、キレのあるリズムとゴスペル、R&Bに根差したサウンドには、非凡な箇所がそここに垣間見ることができる。
録音は当時の相応なものであるが、そのアイディア自体は現代にも通じるものもあり、現代のヒップホップ勢などにも結びつけられるセンスが窺える内容。サイケ全盛の60年代において、時代と呼応するように未分化の可能性が詰められており、今現在の耳で聞いても新鮮な趣を感じられるのは興味深いところ。
これを聞く限り、スライ・ストーンという人物も当時の名だたる才能たちに引けをとらないどころか、抜きん出ていた個性の持ち主であることが間違いなく感じ取れるのではないかと。アイディアの瑞々しさが失われていない事が何よりの証拠だろう。それだけ魅力ある初作だ。


Dance to the Music

Dance to the Music

  • アーティスト:Stone, Sly
  • 発売日: 2007/04/17
  • メディア: CD
68年発表2nd。原石の輝きであった前作から一気にサイケでポップな方向へ振り切った感じのある、ハッピーな一枚。当時のヒッピームーブメントの熱気がそのままバンドのソウルフルなサウンドと渾然一体となって、サンフランシスコの陽気とともに時代の寵児となっていく様子が窺えるの興味深い。
サイケデリックソウルとも呼ばれた音楽性の背後にはスライ・ストーンが教会の助祭を父に持ち、幼いころから教会で家族と演奏していた経験があり、そこで奏でていたゴスペルが楽曲の下味として、影響を滲ませているように思う。その為かとことん神との対話と祝福を重ねたかのようなアッパーな趣を感じる
このアルバムの突き抜けるようなソウルフルなポップネスはこういったゴスペルの影響や本作に収録され、後に改作される「Higher」にも代表されるように、ドラッグハイ、躁状態のインナートリップが表現されているもののように思う。ベーシックな音楽が時代の空気を帯びて、先鋭化しているようにも見える
同時に人種混交バンドであるのも、影響しているのかバンド自体ある種の境界線がなく、等しい立場で奏でている雰囲気に閉鎖的、あるいは密室感のようなものはなく、アメリカ西海岸の炎天下でプレイヤー、オーディエンス関係なく一緒くたに踊り狂っている開放感は時代の先を行っていたのではないだろうか
さながら黒人コミュニティーで繰り広げられたブロックパーティのような雰囲気がある内容で、当時のヒッピーカルチャーの理想型を提示していたようにも感じるし、後の時代でより強固に結ばれていく、オーディエンスとプレイヤーの関係性を早くも標榜していたようにも思える。あらゆる点で飛躍の一枚だ。


ライフ

ライフ

68年発表3rd。前作よりわずか5ヵ月後のリリース。サウンド的には狂騒的なトリッピーかつハッピーなノリがやや鳴りを潜めて、ソウル色が強くなり、じっくり腰を落とした、歯切れよく弾力のあるボトムラインが顕著になっている。作り込みの深度が増した感もあり1stで見られた荒削りな部分はもう見えない
特にベーシストのラリー・グラハムの成長が著しく、本作のアルバム全編に渡り、スライと並ぶほどに存在感を強めているのが特徴か。特にベースラインのシンコペーションというか、後にスラップベース奏法を発明する御仁らしいうねりが早くも表出しており、個性が急速に確立されているのが目に浮かぶ。
こうしたメンバーの覚醒もありながらも、前作と比べると溌剌さ、あるいはエネルギーの熱気が演奏の勢いではなく、楽曲のアレンジメントに向かっているようにも感じ取られ、完成度も高く、過去二作から洗練されてきているのは分かるが、その勢いが削ぎ落とされてしまった感のある、いま一歩惜しい作品か。
なお余談だがこのアルバムタイトルのフォントをそのまま使用して、自らのアルバムタイトルとして付けたのが、かの小沢健二というオチ。今やったら相当賛否が入り乱れていたかも知れないなと。オマージュではあるのだろうけども。


Stand!

Stand!

  • アーティスト:Stone, Sly
  • 発売日: 2008/03/04
  • メディア: CD
69年発表4th。一般に次作とともにグループの代表作として知られるアルバム。60年代という時代を彩った作品のひとつとしても記憶されるが、その内容は来たる70年代のブラックミュージックに先駆けたものとなっている。その点では雛形を作った、ともいえるし、裏を返せば過渡期のサウンドでもあると思う
とはいえ、この盤には社会的なメッセージや官能性、はたまた内省的な表情など、要素をとってみれば70年代にニュー・ソウルと呼ばれた潮流を形作るものが込められており、スライ・ストーンの音楽性として落とし込まれているのには唸らざるを得ない。サウンド自体は60年代の熱気を伝えるものだが。
このアルバムに至るまで彼らはヒッピーカルチャーの掲げる愛と自由と平等に寄り添い、サイケデリックブームにも接近していたが、同時に人種混交グループであることが、当時の公民権運動の過激化とも重なり、本作はそういった社会的な様相も帯びたものであるのは疑いがないところ。
ゆえにニューソウルの諦念めいた醒めた感じがなく、どことなく状況に対する怒りを伴ったものとなっているのが、奏でられる要素が後の時代と同一ながら、趣を異ならせている点のように思う。69年という激動の時代の移り変わりをドキュメントしているような作りでもある。
後の時代の要素と当事的な時代の熱がバッティングして、今聞くとアルバムのテンションがどっちつかずな向きもあるが、熱気と冷気が混ざり合って、ぬるま湯な感じになっているのが興味深い所。楽曲のアイディア自体は時代を先んじている部分も多々あり、時代を象徴する一枚という印象が強く残る名作だ。


THERE'S A RIOT GOIN' ON

THERE'S A RIOT GOIN' ON

71年発表5th。ベストアルバムを一枚挟み、70年代最初に作られた作品にして、彼らの代表作としても知られる一枚。とはいえ、彼らのディスコグラフィの中でも特異点的な一作のように思える。それ位に本来のバンドサウンドとは趣を異にする内容だからだ。同時に当時の時代背景も大きく反映されている。
泥沼化するベトナム戦争とともにヒッピーカルチャーの収束、はたまた黒人の公民権運動といったアメリカの社会情勢を背景に、本作に漂うのはやるせない虚無感。たった2年過ぎる間に60年代末の喧騒に満ちた熱気や掲げられた理想は夢と消え、残ったのは当てどなく続く、現実と日常。
そういった倦怠感の中で、奏でられる楽曲は空疎そのものとも言える。というより、このアルバムの楽曲は高揚感を削ぎ落とされ、グルーヴもミュートされたような面持ちのファンクビートがストイックかつ無機質に包み込む。そのミニマルな感触が返ってクセにもなるが、そのテンションはローのままだ。
本作はバンドとしての演奏にスライ・ストーンが原型を留めないほどにオーバーダブしていることでも知られているが、そういった彼の疲弊した精神状態と社会背景が同調して、非常にパーソナルな趣が反映されているようにも感じられる。それ故にスライ・ストーンのソロ作の向きが非常に強い。
バンドの代表作であるが、このような側面な為、バンドの全容を捉えるには不向きな作品である、というのも事実ではあるがそれ以上に時代と呼応した名盤であることも疑いようがなく、中々たち位置の難しい作品という印象が先行する。だからこその不思議な魅力と引力に引き寄せられる一枚でもあるか。
熱狂もなく、クールに冷めていると言うよりかは、草臥れた雰囲気にぽっかりと穴が空いている。そんな諦念にも似た感情でリズムとグルーヴが乖離した、唯一無二の音は後に様々に参照されるが、再現するには作った本人すら難しい類の音楽だろう。事実、本作以降は徐々に下降線を辿っていく事となる。


FRESH

FRESH

フレッシュ

フレッシュ

73年発表6th。メンバーチェンジを経て、前作のグルーヴを廃した空虚さから、肉感が戻ってきたように感じられる作品。とはいえ、60年代の姿は皆無で、低体温なグルーヴが這うように繰り広げられるような内容となっている。少なくともハイになるような高揚感はないが、贅肉をそぎ落とした音に聞こえる
その素っ気無い感じがスタイリッシュに聞こえるから不思議な所で、華やかさの影形も無いが、弾力感のある筋肉質かつマットな感触は、アシッドジャズのニュアンスに近いかもしれない。無論、このアルバムにダンサブルな要素は皆無なのではあるが。質感のつけ方は時代の先を行っている印象を受ける。
楽曲もアップテンポの曲がなく、ミディアムテンポでじわじわとグルーヴを渦巻かせる楽曲がほとんどなので、わりと遅効性というか、スルメ系の横ノリがメインのアルバムである事は疑いが無い。時代の金字塔である前作の余波がありつつも、心機一転を目指した作品として十分に聞ける一枚だ。

さて、ここからは91年盤と08年盤の違いについて。
ファンにはよく知られている事実のようだが、91年に再発された日本盤CDは何らかの手違いが発生して、一曲目の「In Time」を除く全ての収録曲がオリジナルと異なるミックスとなっているという不思議な内容となっている。
それも公式サイドが意図していない収録内容であり、08年盤にはオリジナル音源と91年盤に収録された音源を改めて、公式リリースしている事からも91年盤の不可解な手違いが目立つ。実際聞き比べてみると、その違いは誰が聞いても明らかなほど。曲によってはアレンジも全然違う。
聞き比べてみると、オリジナル音源はスライがかなりオーバーダブを重ねて、加工している音源であり、91年盤収録分はスライの手が加えられる以前の素の音源のように聞こえる。手が加えられていない分、バンドの演奏は非常に当時らしい質感を伴ったサウンドに聞こえ、悪くない内容。
反対にオリジナル音源はスライがマスタリングまで弄っているのか、楽器の定位まで変わっている箇所もあり、91年盤の演奏を素材にして思い描く形に変えていった、と推測できる。興味深いのはそのスライのセンス。73年の時点で、トラックメイカーのようなサンプリング&ミックスとビートメイクをしている
ソースこそ自前ではあるが、多重録音を駆使して、楽曲を加工していくその姿はやはり、ヒップホップ以降の手法と同一のように思う。当時の多重録音がオーケストラ的に楽曲に色を塗り重ねていく一方でスライは演奏を加工し、楽曲の形そのものを変えてしまう事に専念していた、のだと思う。
その傾向は前作にも現れていたのだろうけども、このように予期せぬ手違いとはいえ、加工以前/以後の音源が聞ける事で、スライ・ストーンの天性のセンスが検証できるのは興味深いところ。スライ・ストーンサウンドの研究には欠かせない作品だろう。この作品が最後の輝きだとしても、その価値は不変だ


Night Passage

Night Passage

  • アーティスト:Weather Report
  • 発売日: 2008/03/01
  • メディア: CD
80年発表9th。一応、スタジオ録音なのだがオーディエンスを招いて2晩計4ステージに渡って披露されたスタジオライヴが収録されているというアルバム。最後の曲のみ、日本公演からの収録となっている。この為、以前までの多重録音がされておらず、一発録りの即興性が重視されている作品でもある。
この盤は「WRが4ビートジャズに回帰した」と評価されており、デューク・エリントンの楽曲を取り上げているのを始めとして、非常にクラシカルな4ビートに乗せて、WR独特のフレーズが飛び交う、という不思議な感触となっている。フュージョンでありながらジャズでもあるという他では味わえないテイスト。
「8:30」におけるスタジオ録音でも見られた、つかみ所のない4ビート曲の延長線上というのがこのアルバム全体の印象であがるが、楽曲がかなり抽象的な印象なのは、メンバーたちの卓越した演奏力による即興性を引き出すものである意味合いがかなり色濃い。事実、本作は楽曲よりはプレイが際立っている。
ジャムセッションではないが、楽曲の枠を決めて、メンバーがその枠を超えた演奏をいかにするか、というテーマの下に行われているように思え、それが出来てしまうほどにメンバーの能力が高いことも窺える。だからこそシンプルな4ビートで奏でられる。達人たちの自由闊達な技を見る感じだろうか。
そういったジャズの即興性と自由度を再確認するとともに、フュージョンの限界値やあるいはニューエイジ/アンビエントの可能性まで感じられる内容は非常に興味深いものだろう。フュージョンの道を切り開いてきたグループのひとつの境地ではないだろうか。到達点ともいうべき味わい深い一枚だ。


’81

’81

82年発表10th。スタジオ10作目は77年から始まった黄金期体制の最終作。本作を最後にジャコ・パストリアスピーター・アースキンが脱退、ソロ活動に専念していく。そういった清算の向きのある作品だが、ザウィヌルの個性が再び強く反映された内容となっている。むしろ77年以前とダイレクトに結びつく。
黄金期体制はどちらかというとジャコ・パストリアスという望外の人材を得たことでのプレイヤー志向にユニット自体が傾倒していった時期でもあるから、ジャズやフュージョンのコンボとしては技巧に突出しすぎていた向きも否めず、前作はその極みのようなスタジオ(ライヴ)録音だった。
反対に今回はザウィヌルが主導権を握ったような印象を持つ。というのも既に脱退の決まった二人も次の指針が決まっており、WRというユニットで自分のなすべきことはやりきった状態であるはずなので、おのずと一歩下がった状態でプレイに専念してるようにも聞こえる。
聞いている限りでは、ザウィヌルは突出ではなく、調和や統率をバンドの理想として持っていたのではないかと思える。あくまでアンサンブルを念頭に置いた上で、プレイが傑出していたのが黄金期メンバーであることは疑いようもない所。だからこそそこからの反動というのが本作なのではないかと。
70年代中盤までのサードワールド的なサウンドと前作の4ビート回帰が重なる中で、黄金期メンバーがそれを奏でるという所を見れば、この盤がセルフタイトルであることはWR黄金期の完成形を見たから、なのだと思う。同時に新たな出発点でもある。
今までと違うのはこの新たな出発点に、脱退する二人は参加しないというだけ。道は分かれたのである。そんな分岐を見せたアルバムなのだと思う。その一方で、リズムマシーン導入した曲や80年代へ向けてジャズの可能性が散りばめられた作品だとも感じた。ザウィヌルがバンドリーダーとしての存在感を改めて示した印象の一作。