音楽鑑賞履歴(2019年4月) No.1309~1315

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
平成から令和へ。
元号の変わり目なんていう、滅多にない出来事を経ての最初の定期記事更新です。
相も変わらず、7枚という体たらくですが去年に比べたら聞いてますね。
今回は割りと雑多に。ブラックミュージック系が多い感じでしょうか。
一番最初のJAGATARA「裸の王様」のレビューが長々と書いてます。
令和年間が良い時代になることを祈りつつ。
というわけで以下より感想です。


裸の王様(紙ジャケット仕様)

裸の王様(紙ジャケット仕様)

87年発表3rdでオリジナルアナログMixを使用した07年リマスター盤。これより一つ前のリイシューである99年盤は初CD化の際に、レゲエ畑のエンジニアであるゴドウィン・ロギーがミックスを施したものとなっている。今回レビューをする、07年盤は20年の時を経て、当時のアナログ盤のミックスが初CD化された
聞き比べるとボトムラインの重低音を中心に据えて、アルバム全体の統一感を出しているゴドウィン・ミックスに比べると、オリジナルミックスは収録曲の個性がそれぞれ際立つミックスになっていて、曲ごとの印象がより鮮烈なものになっているのが大きな違いだ。故にアルバムの印象がまったく異なる。
重低音を全体に高めることでアルバムのトーンと演奏のグルーヴが強く意識され、「裸の王様」というアルバムの像が浮かび上がってくる、ゴドウィン・ミックスは同じ場で演奏されているような錯覚もあり、各曲のトーンが均質化されているのが分かる。グルーヴの整理整頓がされているのは一つの判断だろう
対して、オリジナルミックスドンシャリ感の強いミックスで「一曲完全燃焼」という印象が強く、一曲ごとのプレイヤーたちのエネルギッシュな熱量が迸っている。曲ごとの様相がころころ変わるので、全4曲ながらリスナーが心地よく「疲れる」一枚であることは間違いない。
事実、ゴドウィン・ミックスを先に聞いていると、オリジナルミックスの楽曲たちの鮮やかな表情に驚く。アフロ・ファンクな「裸の王様」で幾度となく繰り返されるリズムのキメにブチ上がり、「岬で待つわ」ではラテン・ファンクの細分化されたホットなパーカッションリズムに温度は上がるばかり。
「ジャンキー・ティーチャー」はここまでNW・ポストパンク色を帯びた演奏だったのかと驚かされ、ラストの「もうがまんできない」ではレゲエのクールネスな響きとサヴタージな悲哀と皮肉が押し迫り、アウトロでの残響の余韻がたまらなく印象的だ。と、このように濃度の高さが肌で感じられる。
個人的にはゴドウィンミックスの纏まりの良さも嫌いではないが、オリジナルミックスの際の美味しい部分だけを集めたような、メリハリのついたサウンドを先に聞いていると見劣りしてしまうのも頷けてしまう。また99年盤はミックスの際に江戸アケミの要望で一部楽曲のボーカルが録り直されている。
その辺もネックとなって、ファンの不興を買っているのは事実ではあるが、全体に音がオリジナルよりも分厚くなっているゴドウィンミックスは今聞くと現代的な音のようにも聞こえなくないから、良し悪しといった所。内容的に名盤である事実は変わらない。入手困難ではあるがファンは一度聞いてみてほしい
※99年盤のレヴューは以下のリンクにあります。
terry-rice88injazz.hatenablog.jp


じゃがたら/JA・BOM・BE (UKI UKI)

90年発表ライヴ編集盤。インディーズで出していた2枚のライヴ音源EP「UKI UKI」と「JA・BOM・BE」を2in1した編集盤。それぞれ前者が86年9月、後者が87年12月に行われたライヴを収録している。時期的にインディーズ時代末期で、中間に挟まれたリミックス曲を境に様相が変わる。
収録曲は基本1st「南蛮渡来」のものとイアン・デューリーのカバーが1曲。しかし、演奏の雰囲気は全く趣を異にする。「UKI UKI」収録の3曲(リミックス曲もこちら)はバンドのホットで猥雑な部分が展開される扇情的な演奏。時代的な音(圧)の弱さが災いしてガツっとした重量感はないがグルーヴ感は強い
印象深いのは後半「JA・BOM・BE」収録の「クニナマシェ」と「タンゴ」。どちらもバンドの代表曲であるが前半に比べて、こちらはクールかつ醒めた印象の演奏で土着的なリズムが響く中、死の淵や社会への諦念を感じさせる、凄みのある演奏。印象には弱いが「タンゴ」にはミュートビートの小玉和文が参加
1st収録曲のライヴテイクという貴重さもあるが、内容的にはバンドの生々しい演奏が聞けることが主眼となった内容といえるかと。しかしこれだけ磁場が強いバンドだとやはり生でライヴを体感することが一番なのだろうけど、それが叶わない事だけが悔やまれる。一度体感してみたかったと思わせる一枚だ。

Esso Trinidad Steel Band

Esso Trinidad Steel Band

71年発表1st。石油会社で有名なエッソがトリニダード・トバゴに投棄していった質のいい鉄製ドラム缶を使って、現地人がスティールパンを作り、楽団を結成したところ、評判になってエッソがスポンサードして出したアルバム。そしてバンドのプロデュースにかのヴァン・ダイク・パークスが関わっている。
彼のプロデュースによって、スタンダードポップスなどしか演奏していなかった彼らがキンクスサイモン&ガーファンクル、ジャクソン5、当時のミュージカル「ヘアー」の劇中歌などを本作でカバー。スティールパンの響きが十全に伝わるポップな味付けとなっていて、内容の出来に一役買っている。
スティールパンの独特かつ柔らかな金属音によるメロディの響きと、そこにドラムやパーカッションのリズムが加わり、カリプソなどのカリビアンミュージックがアルバム全体の眩しいくらいの陽気さを生み出していて、とても楽しそうな演奏が聞こえてくる。71年という時代を考えても底抜けに明るい。
そういった世情や時流を抜きにしても、伝わってくるのはスティールパンのあの響き。このきらびやかな音を聞いてるだけで桃源郷にいるような感覚に浸れる、甘露のような音楽であることが何よりも耐え難く、音楽そのものの魅力が伝わってくる。当のヴァン・ダイク・パークスが惹かれたのも頷ける良盤だ

Roy Buchanan

Roy Buchanan

72年発表1st。ローリングストーンズにメンバーとして誘われたこともある実力派にして、世界一無名なギタリスト(手違いでそう呼ばれたそうだが)の異名をとる、ロイ・ブキャナンのソロ初作。ジャケットからも分かる、無骨な印象そのままのテレキャスターが鳴り響く。
内容はロックというよりは、出身地であるアメリカ南部アーカンソーに根ざした、ブルースやカントリーウェスタン調の楽曲がメインだが、彼のテレキャスターから奏でられる硬質なギターフレーズがシャープに響き渡るのが印象的だ。最低限のバンド構成だけのきわめてシンプルな演奏がそれに拍車をかける。
余計な装飾がない分、ギターの金属質な音がエモーショナルに鳴り、心を揺さぶる。曲よって、その表情は豊かに変わるが、やはりテレキャスターの音がなんと言っても滋味深く、そして時に素っ気無く、付かず離れずな味わいが良い塩梅だ。その奥行きの深さに浸る一枚だろう。32分ほどの短さだが味は深い。

Electric Ladyland

Electric Ladyland

・68年発表3rd。ダブルアルバム(当時)の大作で、初期三作の中では一番ブルース色が濃いアルバム。スティーヴ・ウィンウッド率いるTrafficのメンバーなどゲストが多数参加している。サイケデリック色が後退している分、ブルージーで骨太いサウンドが特徴的。特にギターの熱気と音の分厚さがすごい。
ディランカバーの「見張り塔からずっと」や代表曲「ヴードゥーチャイル」などが目立つが、中盤(レコードside2~3)のポップな楽曲の粒立ちの良さもアルバムの充実度に貢献してるように思う。75分超と今も当時も量的にはかなりの大作ではあるが不思議と長さは感じさせないのど越しの良さには驚くばかり
それもジミによる練り込まれた楽曲と天性の即興能力が絡み合って結実したものであることには間違いなく、今なおリズム・メロディ・アレンジに新たな驚きと発見があることがそれを物語っているように思う。センス・オブ・ワンダーが時代性を超越しているという証拠のような驚異的な一枚ではないかと。

A(エース)

A(エース)

・97年発表7th。彼ら最大のヒット作にして、一般にまで知名度を広めたことでも知られるアルバム。ロングヒットした「Shangri-La」が収録されている事でも知られている。続く次作に比べると、音楽然とした楽曲が立ち並ぶが、同時に電気グルーヴらしいアシッドなテクノが全面に押し出されている。
持ち味でもあるユーモラスかつ毒気を感じるコミカルさとクールなトラックが絡み合い、奇妙な酩酊感があるのは彼らの真骨頂といったところ。アルバムとしての完成度が高い反面、「Shangri-La」もそうだが、全体に即効性に乏しいトラックで占められているので、ジワジワと利いてくるサウンドという印象。
ユニット名よろしく、グルーヴが渦巻く一枚となっており最大のヒット作にも拘らず、かなり玄人好みな内容にも聞こえなくないか。意外とスルメ系の良盤なので、魅力を実感するには何度か聞き返してた方が吉か。本作を最後にまりん(砂原義徳)が脱退。以降、卓球&ピエールの二人体制に。

The Gold Experience

The Gold Experience

・95年発表15th(本人単独名義で)。前作で「プリンス」という名義を葬り、3年前のアルバム「Love Symbol」で登場した記号をアーティスト名にした、最初の一枚。所属のレコード会社との確執による結果なのではあるがこの後、しばらくこのややこしい名義での活動が続く。
とはいえ、内容は気を吐く勢いで漲った、エネルギッシュな作品だろう。プリンスらしいクセの強さを物語る、ロックともファンクともつかない鋭い演奏がHI-FIな印象で密度高く聞こえてくる。しかしそうはいっても80年代のポップな作風と比べると、濃密なブラックミュージック然としたサウンドだろう
だからなのだろうか、ロックミュージック的な勢いのある曲よりはミッドテンポでうねりのある曲の方が味わい深く、魅力的でもあるか。めくるめく官能の世界というか、プリンスサウンドのねっとりとした、濃い世界が繰り広げられる点では90年代の作品の中でも最良の形で提示している。
一口目が非常に飲み下しづらいが、それを乗り越えてしまえば、あら不思議。タイトルの通りの「黄金体験」が堪能できるアルバムではないかと。苦闘が続く、雌伏の時期であることを感じさせない、プリンスがプリンスたりうる音楽が所狭しと押し寄せてくる。ギラギラしてるけど美しさのある一枚だ。