【ネタバレ】「私たちの居る理由」歌詞読解〜少女☆歌劇レヴュースタァライト〜

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今回は「少女☆歌劇レヴュースタァライト」舞台版のミュージカル曲についてのお話。



本作はアニメと舞台による二層展開式となっている物語で、そこで繰り広げられる「歌」も作中あるいは物語において、かなり重要な位置を占める要素となっています。本作のキャラクターユニット、スタァライト九九組が歌う全楽曲を作詞しているのが中村彼方さん。
中村さんのインタビューを読むと、作詞家としては珍しく作品の企画脚本会議に初期段階から参加し、物語構築の根幹にも深い関わりを見せているようなので物語同様、その中で披露される楽曲についても、読み込む必要がありそうです。
そこで今回は歌詞の読み解きをしてみようかと思います。
↑に張った舞台版のBDを手に入れてから暇さえあれば見返しているのですが、その中でも特に読み解きがいのある一曲をチョイスして、語ってみようと思います。それが今回取り上げる「私たちの居る理由」です。
ただここで留意してほしいのは「私たちの居る理由」は作詞クレジットがはっきりしません。舞台版のパンフレット、BDのブックレットを見ても、中村さんの肩書きは「劇中戯曲脚本と作詞(2部ライヴパートの楽曲)」となっています。なので舞台の劇中で歌われている楽曲の作詞については、舞台の脚本を担当された三浦香さんである可能性が高いです(というよりほぼ間違いない?)。とはいえ、中村さんの作詞した「Star Divine」も劇中歌として使用されているのでそのあたりの境界線がはっきりしていないのが悩ましい所。舞台版のプレコール(自己紹介曲)とは別に、キャラ紹介楽曲である「よろしく九九組」をTVエンディング曲のカップリングに作っている辺りを察すると、はやり違うのかなとも。

それらを踏まえて、今回の記事をお読みいただければと思いますが、それにしても「私たちの居る理由」の歌詞が聞く度に唸ります。端的にいうととてもエモい。エモくて、いろいろ今後のことがいろいろ思い浮かぶくらいなのですが、それはおいおい語るとして。
例によって舞台版視聴を前提としたネタバレになります。
続きを読む場合は以下をクリックして、お読みください。




さて、「私たちの居る理由」はひかりの転入によって、不協和音の走った(というより仲間意識が希薄な)華恋以外の7人がそれぞれ胸の内に秘めた自らの弱さ、なりたい自分への吐露を歌った曲です。物語のヤマとタニで考えるならば、「タニ」の場面で歌われる曲で、物語の山場へと向かって、因縁を作る劇中歌でもあるでしょう。
この楽曲が凄いなと思うのは、その歌詞の対比構造とキャラクターの相関関係。というかですね、ネガティヴな部分を描いていながらも、各キャラの持つ問題を解決する糸口も組み込んでいるのが非常に巧みなのですね。
どういうことなのかは、実際に歌詞を眺めていくと分かりやすいので以下に引用しながら解説していきたいと思います。出典は先のリンクに挙げた舞台版BDの特典として封入されているブックレット、または今年1月に再演された#1の再演版パンフレットに収録されています。
また今回はわかりやすく、誰が歌っているのかを色分けしています。こちらは公式で設定されている彼女たちのパーソナルカラーが準拠です。誰が誰なのかは公式サイトでご確認ください、というのも野暮なので一応誰がどこを歌っているのかを明示しておきますね。
ではまずは全体をご覧ください。黒字部分は合唱部分です。


【私たちの居る理由】



夢の前では大きく
人の前では小さくなる
でも本当の私を知りたくて
いつもその笑顔に憧れていた



期待されてきた未来
当然のセンターポジション
親の七光りと言われようとも
これが私に与えられた
人生の舞台だから



負けられない誰にも
美しさならばみんなが持っている
でも私だけの何かで輝きたい



慣れてきた当たり前の孤独
舞台が変えてくれたわ



私ならば目指せる



変わりたくないこのまま



次のステージへ



次には私まだ進めない……
時間よ止まれ 大人にならないで



期待されてきた未来
立派に生きることの期待
親の言うレールを破ってここまできたの


これが私に与えられた人生の舞台だから



負けられない誰にも
強がりならば本当はいらない
でも私だけの何かで輝きたい(時間を止めて)


(※カッコ部分は色ごとに各キャラの歌唱)
大切な人と(一人じゃない)
夢への舞台へと(恐怖を)
ライトを浴びるまで(打ち破って)
諦めない(負けられない自分に)
私がここに居る理由(強くなりたいから)
答えなんてきっと一つじゃない
(私の答えなんて、私だけの何か)


何かを……何かを……
見つけるまで進むしかない



私にとってたった一つの夢のために……
それが私がここに居る理由


以上、引用。こんな感じですが細かく見ていきましょう。
歌詞と歌っているキャラクターが対になっていることを見ていくと結構、面白いんですよ。何故かというと、公式に設定されているカップリングを入れ替えている上、キャラクターの背景で重ね合わせているからです。その様に照らし合わせていくと、いろいろと見えてくるものがあって今後アニメでも有り得そうな組み合わせで想像が膨らんでいくのです。


期待されてきた未来
当然のセンターポジション
親の七光りと言われようとも
これが私に与えられた
人生の舞台だから



期待されてきた未来
立派に生きることの期待
親の言うレールを破ってここまできたの
これが私に与えられた人生の舞台だから


まずはこの二人。クラスの学級委員長の純那と学年主席の真矢。この二人のキーワードになっているのは「期待されてきた未来」と「親」。この2点において対極的な位置にあるのが良くわかります。トップスタァ俳優の両親を持ち、その期待に対して答えようとする真矢に対して、親の反対を押し切ってまで舞台俳優になる夢を追って、聖翔音楽学園に入学した純那。
「期待されてきた未来」というのが彼女たちを精神的に縛っているのだけど、その意味がまったく逆。その未来に対して「人生の舞台」をどう位置づけているのかで彼女たちのコントラストが生まれているといっても過言ではありません。


「親」がトップスタァであるゆえ、その子供にも寄せられる期待が「当然」だからこそ、「与えられた舞台」をこなす真矢。
親」に期待された未来を外れてまで、自分の夢を実現するために「与えられた舞台」に立ち向かう純那。


「人生の舞台」を「義務」として捉えるか、「挑戦」として捉えるのか。翻れば、彼女たちにおいては「夢」の有無も大きい。純那は舞台少女になるという強い「夢(自己)」をを持つ一方で、真矢はサラブレットではあるが「与えられた舞台」に対して、どのように自分(あるいは夢)をコミットさせていくかが見えてこない。それゆえに真矢は「迷宮」に入り込んでいると察したりもするわけですが。純那がそういう強い自分を持っているのに対して、真矢には自分がない。
この「私」という対比こそ、二人が「輝く」ために不可欠な要素であるのがわかります。


続いて取り上げる二人も同じように「私」の対比をしながら、「私だけの何かで輝きたい」と吐露しているのに注目。


負けられない誰にも
美しさならばみんなが持っている
でも私だけの何かで輝きたい



負けられない誰にも
強がりならば本当はいらない
でも私だけの何かで輝きたい


真矢を過度にライバル視するクロディーヌと幼い頃から香子に付きっ切りで世話を焼く双葉の対比は「個性」というべきでしょうか。
注目したいのは二人の歌っている譜割りです。BDを持っている人はぜひとも確認してもらいたいのですがクロディーヌと双葉の歌っている箇所は意味が二重に掛かっている所がとても興味深いのです。つまりはこういうことです。


負けられない誰にも美しさならば
負けられない誰にも強がりならば


美しさならばみんなが持っている
強がりならば本当はいらない


と、このように二人が自らの「性質」を一見自負しているようで、直後にそんなものはありふれたもの、必要のないものと否定している。けど「私だけの何かで輝きたい」と二人は歌い上げている。クロディーヌと双葉についてはどちらも月見草的な性質を持つキャラクター、という以上に側に居るキャラクター(真矢と香子)の個性がどうして大きく見えてしまうゆえの苦悩が見え隠れしているのがわかります。
だからこそ「ないものねだり」をしてしまい、自分が「見えていない」というのが歌詞にも表れています。ただ意味が二重に掛かっている部分をこの二人が歌っていることからもわかるように、お互いに否定している部分は同時に彼女たちの「個性」にも当てはまるのだと考えられます。双葉には双葉なりの「美しさ」があり、クロディーヌにも「強がっている」箇所がある。それがただ見えていないだけ、「輝ける」ものは内に秘めているはずなのです。


そういった「輝けるもの」の対比以上に聖翔音楽学園という「学校」や「舞台」がどういう場所なのかを対比しているのが次の二人です。


慣れてきた当たり前の孤独
舞台が変えてくれたわ



私ならば目指せる



変わりたくないこのまま



次のステージへ



次には私まだ進めない……
時間よ止まれ 大人にならないで


聖翔音楽学園に入るまではずっと孤独だった(らしい)ばななと、日本舞踊の家元に生まれ、(恐らく)周りにちやほやされてきた香子の対比。
歌詞の中に垣間見える背景には、いったいに何があったのかと不安になるばななですが「時間よ止まれ」とか「大人にならないで」とか「変わりたくない」とかひときわネガティヴなフレーズを連発する彼女に対して、香子は徹底して上昇志向。ばななが饒舌すぎるので、香子の読み取りには手間取ってしまいますが、彼女の背景を鑑みるに「孤独」だった時期は皆無に等しかっただろう事は推察できます。


香子にとっての聖翔音楽学園という「学校」は次のステップに上るための踏み台しかなくて、先に先へと進みたいというトップ志向が極めて強い。
ばななは「舞台」と聖翔音楽学園という「学校」によって、「孤独」だった状態を変える事が出来た為に「幸せな空間」に留まりたいという思いが強い。

上昇志向と現状維持。この二つが彼女たちのスタンスを分かつ要因になっているのは間違いないが、もっと抜き出せば「場」に拘っているに気付きます。自分がもっと「輝ける場所」を求めて進んでいこうとする香子と「今が自分の最も輝ける場所」であると信じ込み、モラトリアムに拘泥するばなな。「場所」の捉え方が対照的である以上、彼女たちの「場所」に対する認識を変える気付きをお互いがお互いに持っているように見えますね。


ここまで見てきた対比関係を踏まえて、主人公である華恋は以下のように歌います。


大切な人と
夢への舞台へと
ライトを浴びるまで
諦めない
私がここに居る理由
答えなんてきっと一つじゃない


(一人じゃない)
(恐怖を)
(打ち破って)
(負けられない自分に)
(強くなりたいから)
(私の答えなんて、私だけの何か)


華恋のパートは他の7人との掛け合いになっているのですが、華恋の「ここに居る理由」が力強く歌われている一方で他の7人は「内面の問題を打ち破って、強くなりたい」と赤裸々に歌い込みます。同時に「答えはきっとひとつじゃなく」、「答えなんて、私だけの何か」というのが華恋と7人の対比になっているのもわかります。
華恋については大切な人(ひかり)と約束をした事を「諦めない」ために「ここに居る」という以上に他の7人とは違い、解決すべき内面の問題が存在しないどころか「答えはきっとそれぞれがそれぞれに持つもの」という「解答」を口にしていることにも驚きます。華恋以外の7人は自覚無自覚はともかく恐怖(トラウマ)を克服する「正解」を見つける事が「ここに居る理由」に繋がっているのを考えると、愛城華恋は一体何者なのか?という疑問も浮かび上がってきますがともかく。

何かを……何かを……
見つけるまで進むしかない


というフレーズでまとめられます。「答え」を見つけ出すには前進以外しかない、しかしその「答え」は「私だけの何か」である以上、ここまで対比してきた歌詞の中に存在すると考えれば、お互いがお互いの内にはない「答え」を持っているという風に読み取れる歌詞になっているのが非常にエモいのですよ……!TVアニメでどこまで連動するのかまだ分かりませんが、もしこの劇中歌の歌詞の関係で話が展開してくれたら、個人的には泣いて喜びます。


とはいえ、まだ残っている対比が一つだけあります。それが以下の歌詞。


夢の前では大きく
人の前では小さくなる
でも本当の私を知りたくて
いつもその笑顔に憧れていた



私にとってたった一つの夢のために……
それが私がここに居る理由


イントロのまひるの歌詞とアウトロのひかりの歌詞はシンプルに華恋に対しての対比です。
引っ込み思案で自分に自信のないまひるに対して、華恋に対して一途なひかり。まひるの方は後に続く歌詞との関連で、「私」という視点で理想と現実のギャップに思い悩む様が独立して歌われているわけですが、同時にまひるは他者を介さなくても、自分で気付きを得られる聡明さが舞台上でも描かれていましたし、公式の組み合わせでは唯一組み合わせが重複する華恋が相手なので、独りでも立てる強さが求められているようには思います。
この為に、まひるとひかりにおいては華恋へ向ける感情が異なっていることが分かります。


まひるは「理想の自分」を華恋に見ていて、「憧れ」を感じている
ひかりは華恋との「約束」が実現すべき「夢」であり、「永遠の友情」を信じている


ということでしょうか。まひるについてはプレコールのフィニッシュポーズが華恋に酷似したポーズな事からも、彼女との友情以上に憧れを感じている部分が強く、ひかりと対決する段になって感情を爆発させるのも華恋という親友を取られるというのと「理想」を失うという複雑な気持ちが入り乱れているようにも見えますね。ひかりはもっと深刻で華恋という存在そのものが彼女に重くのしかかっており、「ここに居る理由」にもなっている。華恋がいなくなると「私」という自己の存在理由も失われる程度には、ひかりの背負う十字架となっている事が演技の端々からも伺えるのがとても業が深いわけですが。同時にこの「私たちの居る理由」で歌われる「私」という部分にも強く掛かっているし、他の7人以上に解決すべき問題の重さが段違いであるのも物語っています。華恋が存在していることこそがひかりが「居る理由」となっているわけですから。


【終わりに】
以上が「私たちの居る理由」歌詞読解となります。いかがだったでしょうか。この一曲だけをとってみても、楽曲が物語において非常に重要な位置を占めていることが良く分かるかと思います。そういう点では作品の根幹を構成した独りでもある中村彼方さんの作詞についてもとても注目しているわけですが、今回はその中村さんが作詞しているか定かではない楽曲の読解になってしまったのは心残りではあります。いずれ機会を改めて、記事を書きたいと思いますがひとつだけ。
舞台版BDを何度も見返して思ったのですが、ミュージカルパートを全部見た後に2部のライブパートで「願いは光になって」をぜひ聞いてみてください。個人的にはあの曲がトゥルーエンド曲にしか聞こえなくなっています……!
歌詞を抜粋してみれば分かるのですが例えば。


輝くことは誰かを陰に隠すことじゃない
とか
負けたくはないけどそれだけが全てでもないから
とか
未来はまだ真っ白なままのシナリオだね
とか
書いて消してはまた描いて
とか
いつも自分らしくいるよ
とか
キミもキミらしく微笑んでいて
とか


歌詞カードを見ながら聞けば聞くほど、いろいろと感極まりそうな歌詞が聞こえてくるので非常にヤバいです。
分かって、この気持ち。いや、分からなくてもいいけど。
そういう点ではTVアニメのOP曲である「星のダイアローグ」もとても読み込みが楽しみな曲ですし、まだ公開になっていないED曲「Fly Me To The Star」の歌詞もどう来るか気になって仕方がありません。
いやいやそれよりもアニメのレヴュー曲もすでにやばいわけで。

いやだって1話のレヴュー曲が「世界を灰にするまで」って、普通1話だったら盛り上げてもいいのにいきなりスローかつブルーなバラードなのがかなり挑戦的じゃないですか!? すでに一体何が起きるんだという期待しかないです。
そんなこんなでいよいよ放映が差し迫ってきています。
一体どんな展開が待っているのか、舞台初演からおよそ10ヶ月。いよいよその物語がベールを脱ぐわけですが、筆者としてはまず作品を楽しみたいという一心で向かいたいと思います。最初のPVが公開になって1年強。ついにアニメが放映。ようやくです。
そんな期待を込めて、座して待とうかと思います。
ああ、楽しみ。
というわけで、勢いあまりつつも今回は以上です。ありがとうございました。
みんな見よう、「少女☆歌劇レヴュースタァライト