月一恒例の音楽鑑賞履歴です。
15枚。
1月よりは聞けました。むしろ2月にこれだけ聞けたのも良かったかも。感想は前半は日本特集、後半は60年代ジャズ特集となってます。いや、急にジャズが聞きたくなって、長らく聞き返していなかったのを久々に聞いたわけですけども。こういうのが定期的に発生するのに自分の気まぐれな鑑賞スタイルが良く表れている気がします。
なんとなしに春めいてきましたので、3月はもうちょっと元気のあるやつを聞きたいかなとも思いますが、まだ一昨年の購入分が消化できていないので早めに消化していこうと思います……。
というわけで以下より感想です。
03年発表2nd。EAST END×YURIの休止から7年。EAST END自体のリリースとしては11年ぶりの作品。活動再開盤としての趣が強く、ユニットが形成しているコミュニティ、FUNKY GRAMMAR UNITが総出で参加、また童子-TやCRAZY-Aといった面々も参加した、同窓会的なお祭り感が強く出たゴージャスさが目に付く。
その一方で、トラックの方は今で言うところのトラップのご先祖的なエレクトロ主体のものが多く、当時のトレンドを積極的に取り入れているのが単なるノスタルジーに端を発する活動再開ではないことを強く印象付ける。そうはいっても、ゲストの豪華さでそういった印象も霞んでしまいそうではあるが。
どちらにしても、メンバーがこのユニットでラップに改めて向き合うことを提示した力強い作品であるし、なによりEAST END×YURIの大ヒット曲タイトルをセルフオマージュしたラストトラックはこの時点での彼らのアディテュードを明確に表した名曲と言って良い出来だ。豪華な賑やかさが楽しくもある良盤だ03年発表7th。活動休止直前の作品(実際の休止はリリースの約1年後だが)。それゆえにか、バンドの創造意欲も「最高潮」な一枚に思える。と、同時に一番変態度も高いアルバムに聞こえた。密室感のあるディープなサウンドになにか危ういアングラな印象とその中で煌めくコズミックな響きが堪らない。
このアルバムの始まりの音が非常にP-FUNKを想起させるように、ブラックミュージックにディスコミュージック、はたまた渋谷系の甘いメロディ、前作と前々作で繰り広げられた音響系ポストロックアプローチなどなどが高密度に圧縮されて展開していく様は非常にサイケデリックな趣も醸し出している。
というより、そのサイケでミステリアスな音をモノにする事を彼らが目指していたように思えるほど、必然に満ちた演奏というべきか。バシッときてバシッと決まる心地いい瞬間を味わえるのが最大の特徴だろう。おそらくこの当時のメンバーで出し得る最高の一瞬が収められた一枚。ゆえにクライマックスか。
- アーティスト:Fear,and Loathing in Las Vegas
- 発売日: 2015/09/30
- メディア: CD
そしてその尋常ではない熱量が彼らのエンターテイメントパフォーマンスのレベルの高さを物語ってもいる。たった40分弱の内容にもかかわらず、二時間のライヴでも体感したような密度の濃さも恐ろしいが、どの楽曲も非常にエネルギッシュかつテンションが高い全方位のダンスチューンなのがとんでもない。
しかも、単なるラウドロック一辺倒ではなく、緩急がついたり、エモいハードコアになったと思ったらメロウなパワーポップになったり万華鏡のごとく、瞬間瞬間にバンドサウンドが変容していくし、またアレンジの引き出しの多さに舌を巻く。さらにはキラーチューンを繰り出すことも出来る力量は賞賛すべき
バンドがとても良い状態で、レベルアップしていく様子が伺える名盤というに相応しい一枚。なにより彼らの可能性に底が見えないのが空恐ろしくもある。この先何を見せてくれるのか、というだけでも大きな期待を強く感じた作品だ。どんどん研ぎ澄まされていく切れ味と溜めはもはや世界水準かと。
- アーティスト:Base Ball Bear
- 発売日: 2015/09/02
- メディア: CD
「夜」とタイトルに付いているだけあって、アダルトな雰囲気も感じさせる青春の切なさが揺らめくものとなっていて、思春期の揺らぎとやり切れないノスタルジーがない交ぜになっていて、ファンクビートのユレがそこに絡まってくいというクレバーな楽曲になっていると思う。即効性はないがじわりと来る。
- アーティスト:Base Ball Bear
- 発売日: 2015/10/07
- メディア: CD
改めて、10年前の自分たちを再現するかのようなブラッシュアップされた音は文字通り10年分の蓄積が重ねられたものであり、また原点回帰という点でも研ぎ澄まされたバンドサウンドによって響く音には時間が歪んで、懐かしさと新しさが混ざったような感覚が残って興味深い。
十年一昔とはよく言ったもので、彼らの過去が未来に繋がっているような、当たり前のことを当たり前のように描いた楽曲なんだろうと思う。彼らのクラシックス的メロディが明確に打ち出せる、ということにバンドの歴史を感じるそんな一曲でもあり、なにかSFな響きも感じるポップな一曲かと。
Classroom☆Crisis Original Soundtrack
- アーティスト:Classroom☆Crisis
- 発売日: 2015/10/07
- メディア: CD
サントラという特質上、やはり「状況音」や場面を彩る楽曲という側面が強く、そういった趣の強い楽曲が立ち並ぶが、どの曲も適度に邪魔をしない一方でかとなく個性を発揮しているように聞こえるか。本作はいちおうSF作品のサントラなのでエレクトロ系の音が多く収録されている。
元体操選手という出自がある方なのでやはりリズミカルな曲や躍動感のある楽曲に冴えがあるように思える。むしろそういう風にキャッチーに映えるメロディも作れる人、という印象が際立つか。どちらにしても引き出しの多い作曲家ということをこのサントラを聞いても実感できる内容かと。90年発表6th。江戸アケミ最後のレコーディングが収録されたグループ最終作。とはいえ、アルバムそのものは企画色が強いアルバム。本来、レコーディングされるはずのスタジオ作の前の文字通り「おあそび」的作品で全体的に江戸アケミの影は薄く、OTOの趣味が全面に出ている内容だ。
内容としてはアフリカンミュージックのミュージシャンとの共演が主体で、ムバカンガというアフリカンリズムと発売当時に流行し、18年現在リバイバルを迎えているニュー・ジャック・スウィングの跳ねたリズムが融合したグルーヴミュージックが繰り広げられている。ファンクの粘っこさとも違う、独特な音
コンリートジャングルなリズムの響きと、アフリカの大地を思い起こす肥沃な肉感的リズムがカオスに混ざり合い、シャワーのように降り注ぐ。メロディそのものがリズムとなり、おおきなウネり、グルーヴそのものになっていく音楽はまさしくじゃがたらが目指す音楽だったのではないかと思わせる。
このアルバムで得たグルーヴをバンドの音に変換できたのであれば、世紀の傑作は生まれていたことは間違いはなさそう。ただそうはならなかったのが歴史の悲劇でもある。このアルバムの製作途中に、江戸アケミが死去。本作が遺作となってしまう。そして江戸の関わった曲はただ一曲しかない。
しかしその一曲だけでも強烈であり、歌詞の内容は図らずものちの9・11を想起してしまう位には強烈でもある。それ以上に、ジャンルを超えてリズムミュージックと化した本作の音楽は今こそ再評価されていいように思う。そういう点では江戸が関わるはずだった最後の曲が無常に響く。
「海を見たかい」と名付けられるはずだったその曲はさながら「生きながらリズムに葬られ」だ。歌われることのない歌を看取るようにアルバムの中間にはOTOが自ら歌った「かわから」という曲がまるで弔辞のように響く。朗らかなリズムのおかげで悲観的な趣はないが喪失感の大きいアルバムでもあるか。
- アーティスト:Taylor, Art
- 発売日: 2007/02/22
- メディア: CD
一聴きして、細やかなニュアンスにまで行き渡った溜めの効いたリズムとそのビートの切れの良さが冴え渡っていて、ホーンやピアノなどの主旋律を担うメンバーがとにかく気持ちよく伸びやかにプレイ出来る雰囲気を作り上げているのは間違いなくテイラーのドラムだ。聞いていて気持ち良くなる。
ドラムプレイに付随して、ウィントン・ケリーやスタンリー・タレンタインが水を得た魚のように、グッドフィーリングな演奏を繰り広げていて、これぞジャズ、といわんばかりのスウィングした心地良さを味わえる作品だ。コンガのリズムも入って、その跳ねたビートとドラムのリズムの絡み合いがいやに楽しい。
- アーティスト:Hill, Andrew
- 発売日: 2005/06/14
- メディア: CD
なにか深層に響く音を探っていくような演奏で、そういう点では一種の神秘さも感じられるが、その息遣いの密な距離感が60年代後半のジャズにおける特徴の一つかもしれない。本作はヒルのピアノと同じくらい、ボビー・ハッチャーソンのヴァイヴもフィーチャーされており、よりクールな趣を強めているか。
難解というより曲展開の複雑さが取っ付きづらくはあるが、各プレイヤーがそれぞれの演奏に呼応して、響き合うアンサンブルからはより人間臭い個性を聞くことが出来る筈だ。その点では以前の時代より、演奏による「対話」が際立つ演奏だとも言える。個性の主張の重なり合いが面白い一枚だ。
- アーティスト:ビル・エヴァンス
- 発売日: 2016/10/26
- メディア: CD
全体にミディアムテンポのリリカルな演奏が目立つが、その分の空間的なイメージと共に心地よく揺らいでいく音の響きが時を忘れさせる。もちろん鳴り響くのジャズではあるが、二人の演奏にはクラシカルな優美さも加わり、奥行きの深い音が悠然と浮かび上がっては消えていく。じっくりと聞き浸りたい良盤
- アーティスト:Montgomery, Wes
- 発売日: 1991/07/01
- メディア: CD
とはいえ、ウェスの味わい深いギタープレイはこの時点から健在であり、オクターヴ奏法による丸みを帯びた柔らかな音はすでに個性を確立している感すらあるが、アルバム全体としては熱気を帯びるというよりは穏やかなクールさを感じる内容となっているのが目を引く。
比較的シンプルなトリオ構成である以上、ウェスのギターが目立つのは当然なのだが、個性は感じられながらも、バンドを牽引するような支配力にはまだ弱く、あの辺りに垢抜けなさもやや感じられるだろうか。じっくり聞き込むと味がじわりと滲み出てくるスルメ盤的な佳作。シンプルさが返って映える。
My Favorite Things (With Bonus Tracks)
- アーティスト:Coltrane, John
- 発売日: 2010/12/16
- メディア: CD
演奏そのものはモード・ジャズらしいプレイで、ソロでのミニマルな展開を見せるメロディの変化やブルージーな趣や熱っぽさを廃したクールなタッチは同時代のチック・コリアや初期のハービー・ハンコックなどと呼応するプレイスタイルだと思う。またソプラノサックスの伸びやかな高音がやはり印象的だ。
ただ「My Favorite Things」のインパクトがあまりにも強いために他の収録曲の印象が薄いのが否めないところではあるか。とはいえバンド・メンバーにマッコイ・タイナーとエルヴィン・ジョーンズに揃えているのもあり、当時のジャズらしい切れのいい演奏が聴ける。その意味ではヒット曲に恵まれた佳作か
- アーティスト:HUBBARD, FREDDIE
- 発売日: 2009/02/02
- メディア: CD
そのハバードの相手を務めるのが、隠れたジャズの名手、ティナ・ブルックスの味わい深いテナーだ。独特の哀愁を帯びたブルージーな音色はハバードと対照的でもあり、演奏のコントラストが際立つ。どちらも歌心を感じるブロウなのもあって、非常にメロディアスな印象を強く受ける。
ハバードは当時若干22歳。そのプレイは非常に若々しく勢いに満ちた、活気あふれるものでどんな音にも溌剌さが垣間見える。この力強さはクリフォード・ブラウンのスタイルが色濃く影響されている部分だろう。ブラウンのスタイルを受け継いだ新世代ジャズトランペッターの門出としてはこの上ない一作。
- アーティスト:Hancock, Herbie
- 発売日: 1999/03/17
- メディア: CD
一番モードらしい演奏がポップな「Cantaloupe Island」である事からも、次なる一歩を模索する楽曲という趣が強く、演奏面においてはフレディ・ハバードのトランペットとトニー・ウィリアムスのドラムが極めて鮮烈で、リーダーであるハービー・ハンコックが霞みがちではあるが存在感は出している。
特筆すべきはラストの「The Egg」だろうか。演奏が渾然一体となる中で、テーマが表出してくる演奏はそのまま数年後のエレクトリック・マイルスへ直結する雛形的なプレイのように思う。そういった新たな潮流が芽吹くドキュメントとしても興味深い、過渡期の録音だ。見逃せない重要作。
- アーティスト:サム・リヴァース
- 発売日: 2005/08/24
- メディア: CD
勢いと熱気はバップそのもの、緊張感とロジカルな演奏はモード、その二つから綻びる曲展開の自由さはフリーだ。当時、ジャズシーンで流れていた大きな三つの潮流の臨界点が重なり合って成立したといっても過言ではない、歴史の特異点的な趣すらある。同時にこの時期だからこそ出来た演奏だろう。
力強くブロウするテナーもさることながら、ここでもトニー・ウィリアムスの八面六臂な大活躍がやはり目立つ。一歩間違えばフリーの要素が悪目立ちしそうだが、有無を言わせない若々しいパッションを感じる。同時に負けず劣らずサックスがパワフルな音で迎え撃つ様子が非常に印象深い。隠れた良作だ。