音楽鑑賞履歴(2018年2月) No.1207〜1221

月一恒例の音楽鑑賞履歴です。

15枚。
1月よりは聞けました。むしろ2月にこれだけ聞けたのも良かったかも。感想は前半は日本特集、後半は60年代ジャズ特集となってます。いや、急にジャズが聞きたくなって、長らく聞き返していなかったのを久々に聞いたわけですけども。こういうのが定期的に発生するのに自分の気まぐれな鑑賞スタイルが良く表れている気がします。
なんとなしに春めいてきましたので、3月はもうちょっと元気のあるやつを聞きたいかなとも思いますが、まだ一昨年の購入分が消化できていないので早めに消化していこうと思います……。

というわけで以下より感想です。



Beginning of the Endless

Beginning of the Endless

03年発表2nd。EAST END×YURIの休止から7年。EAST END自体のリリースとしては11年ぶりの作品。活動再開盤としての趣が強く、ユニットが形成しているコミュニティ、FUNKY GRAMMAR UNITが総出で参加、また童子-TCRAZY-Aといった面々も参加した、同窓会的なお祭り感が強く出たゴージャスさが目に付く。
その一方で、トラックの方は今で言うところのトラップのご先祖的なエレクトロ主体のものが多く、当時のトレンドを積極的に取り入れているのが単なるノスタルジーに端を発する活動再開ではないことを強く印象付ける。そうはいっても、ゲストの豪華さでそういった印象も霞んでしまいそうではあるが。
どちらにしても、メンバーがこのユニットでラップに改めて向き合うことを提示した力強い作品であるし、なによりEAST END×YURIの大ヒット曲タイトルをセルフオマージュしたラストトラックはこの時点での彼らのアディテュードを明確に表した名曲と言って良い出来だ。豪華な賑やかさが楽しくもある良盤だ

climax

climax

  • アーティスト:GREAT3
  • 発売日: 2003/03/26
  • メディア: CD
03年発表7th。活動休止直前の作品(実際の休止はリリースの約1年後だが)。それゆえにか、バンドの創造意欲も「最高潮」な一枚に思える。と、同時に一番変態度も高いアルバムに聞こえた。密室感のあるディープなサウンドになにか危ういアングラな印象とその中で煌めくコズミックな響きが堪らない。
このアルバムの始まりの音が非常にP-FUNKを想起させるように、ブラックミュージックにディスコミュージック、はたまた渋谷系の甘いメロディ、前作と前々作で繰り広げられた音響系ポストロックアプローチなどなどが高密度に圧縮されて展開していく様は非常にサイケデリックな趣も醸し出している。
というより、そのサイケでミステリアスな音をモノにする事を彼らが目指していたように思えるほど、必然に満ちた演奏というべきか。バシッときてバシッと決まる心地いい瞬間を味わえるのが最大の特徴だろう。おそらくこの当時のメンバーで出し得る最高の一瞬が収められた一枚。ゆえにクライマックスか。

Feeling of Unity

Feeling of Unity

15年発表4th。飛ぶ鳥を落とす勢いで前作からさらに力強くなった感のあるエネルギッシュな音がとても魅力的な一作。定番のスクリーモ(ピコリーモ)に始まり、USパンクやトランス、ユーロビート、J-POP、メタル、ライヴで盛り上がれそうな音楽ジャンルをすべてぶち込んで、融合させた熱の塊が鳴り響く。
そしてその尋常ではない熱量が彼らのエンターテイメントパフォーマンスのレベルの高さを物語ってもいる。たった40分弱の内容にもかかわらず、二時間のライヴでも体感したような密度の濃さも恐ろしいが、どの楽曲も非常にエネルギッシュかつテンションが高い全方位のダンスチューンなのがとんでもない。
しかも、単なるラウドロック一辺倒ではなく、緩急がついたり、エモいハードコアになったと思ったらメロウなパワーポップになったり万華鏡のごとく、瞬間瞬間にバンドサウンドが変容していくし、またアレンジの引き出しの多さに舌を巻く。さらにはキラーチューンを繰り出すことも出来る力量は賞賛すべき
バンドがとても良い状態で、レベルアップしていく様子が伺える名盤というに相応しい一枚。なにより彼らの可能性に底が見えないのが空恐ろしくもある。この先何を見せてくれるのか、というだけでも大きな期待を強く感じた作品だ。どんどん研ぎ澄まされていく切れ味と溜めはもはや世界水準かと。

文化祭の夜〔完全生産限定盤〕

文化祭の夜〔完全生産限定盤〕

  • アーティスト:Base Ball Bear
  • 発売日: 2015/09/02
  • メディア: CD
15年発表18thSG。エクストリームシングルと銘打たれた企画の第二弾。前作アルバム「二十九歳」のインストバージョンを丸々収録したボーナスCDが付属したシングルとなっている。肝心のシングルの方はNW色の強いミドルテンポなファンクナンバー。横揺れなリズムがずっしりと響く印象。
「夜」とタイトルに付いているだけあって、アダルトな雰囲気も感じさせる青春の切なさが揺らめくものとなっていて、思春期の揺らぎとやり切れないノスタルジーがない交ぜになっていて、ファンクビートのユレがそこに絡まってくいというクレバーな楽曲になっていると思う。即効性はないがじわりと来る。

不思議な夜

不思議な夜

  • アーティスト:Base Ball Bear
  • 発売日: 2015/10/07
  • メディア: CD
15年発表19thSG。エクストリームシングル第三弾。ボーナスCDはバンドのメジャーデビュー10周年を記念しての蔵出しレアトラックス。各曲、完成形と比べて、荒削りな未完成感が魅力的でデモトラックスである事をいいことに割と好き勝手に演奏してるのが楽しげでもある。シングルの方は彼らの王道サウンド
改めて、10年前の自分たちを再現するかのようなブラッシュアップされた音は文字通り10年分の蓄積が重ねられたものであり、また原点回帰という点でも研ぎ澄まされたバンドサウンドによって響く音には時間が歪んで、懐かしさと新しさが混ざったような感覚が残って興味深い。
十年一昔とはよく言ったもので、彼らの過去が未来に繋がっているような、当たり前のことを当たり前のように描いた楽曲なんだろうと思う。彼らのクラシックス的メロディが明確に打ち出せる、ということにバンドの歴史を感じるそんな一曲でもあり、なにかSFな響きも感じるポップな一曲かと。

Classroom☆Crisis Original Soundtrack

Classroom☆Crisis Original Soundtrack

15年発表OST。同名TVアニメ作品の二枚組サウンドトラック。林ゆうきさんというとアニメだとハイキュー!!キラキラプリキュアアラモードなど、ドラマだとリーガルハイなどを手がけていらっしゃる方。一度、所さんの笑ってコラえて!にも出演したことも。内容の方はバラエティに富んだ作り。
サントラという特質上、やはり「状況音」や場面を彩る楽曲という側面が強く、そういった趣の強い楽曲が立ち並ぶが、どの曲も適度に邪魔をしない一方でかとなく個性を発揮しているように聞こえるか。本作はいちおうSF作品のサントラなのでエレクトロ系の音が多く収録されている。
元体操選手という出自がある方なのでやはりリズミカルな曲や躍動感のある楽曲に冴えがあるように思える。むしろそういう風にキャッチーに映えるメロディも作れる人、という印象が際立つか。どちらにしても引き出しの多い作曲家ということをこのサントラを聞いても実感できる内容かと。

おあそび

おあそび

  • アーティスト:JAGATARA
  • 発売日: 1999/09/22
  • メディア: CD
90年発表6th。江戸アケミ最後のレコーディングが収録されたグループ最終作。とはいえ、アルバムそのものは企画色が強いアルバム。本来、レコーディングされるはずのスタジオ作の前の文字通り「おあそび」的作品で全体的に江戸アケミの影は薄く、OTOの趣味が全面に出ている内容だ。
内容としてはアフリカンミュージックのミュージシャンとの共演が主体で、ムバカンガというアフリカンリズムと発売当時に流行し、18年現在リバイバルを迎えているニュー・ジャック・スウィングの跳ねたリズムが融合したグルーヴミュージックが繰り広げられている。ファンクの粘っこさとも違う、独特な音
コンリートジャングルなリズムの響きと、アフリカの大地を思い起こす肥沃な肉感的リズムがカオスに混ざり合い、シャワーのように降り注ぐ。メロディそのものがリズムとなり、おおきなウネり、グルーヴそのものになっていく音楽はまさしくじゃがたらが目指す音楽だったのではないかと思わせる。
このアルバムで得たグルーヴをバンドの音に変換できたのであれば、世紀の傑作は生まれていたことは間違いはなさそう。ただそうはならなかったのが歴史の悲劇でもある。このアルバムの製作途中に、江戸アケミが死去。本作が遺作となってしまう。そして江戸の関わった曲はただ一曲しかない。
しかしその一曲だけでも強烈であり、歌詞の内容は図らずものちの9・11を想起してしまう位には強烈でもある。それ以上に、ジャンルを超えてリズムミュージックと化した本作の音楽は今こそ再評価されていいように思う。そういう点では江戸が関わるはずだった最後の曲が無常に響く。
「海を見たかい」と名付けられるはずだったその曲はさながら「生きながらリズムに葬られ」だ。歌われることのない歌を看取るようにアルバムの中間にはOTOが自ら歌った「かわから」という曲がまるで弔辞のように響く。朗らかなリズムのおかげで悲観的な趣はないが喪失感の大きいアルバムでもあるか。

A.T.'s Delight

A.T.'s Delight

  • アーティスト:Taylor, Art
  • 発売日: 2007/02/22
  • メディア: CD
・60年録音盤。BNに残した唯一のリーダーアルバム。リーダー作とはいえ、自己主張の激しい演奏をしないところがらしいといえばらしいが、テイラーの「主役を立てる」プレイがより際立つ内容で、全体の演奏のフィーリングを支配しているという点では正しくメインに立った作品だといえるだろう
一聴きして、細やかなニュアンスにまで行き渡った溜めの効いたリズムとそのビートの切れの良さが冴え渡っていて、ホーンやピアノなどの主旋律を担うメンバーがとにかく気持ちよく伸びやかにプレイ出来る雰囲気を作り上げているのは間違いなくテイラーのドラムだ。聞いていて気持ち良くなる。
ドラムプレイに付随して、ウィントン・ケリースタンリー・タレンタインが水を得た魚のように、グッドフィーリングな演奏を繰り広げていて、これぞジャズ、といわんばかりのスウィングした心地良さを味わえる作品だ。コンガのリズムも入って、その跳ねたビートとドラムのリズムの絡み合いがいやに楽しい。

Judgement (+Bonus)

Judgement (+Bonus)

  • アーティスト:Hill, Andrew
  • 発売日: 2005/06/14
  • メディア: CD
・64年録音盤。いわゆる新主流派というカテゴライズに属するジャズピアニストの代表的な一作。高揚感を得るような熱っぽい演奏ではなく、思索的でアブストラクトな演奏が繰り広げられていく。ジャズの知的な印象を先鋭化した音といえば分かりやすいか。それ故に難解さも伴う演奏ともいえる。
なにか深層に響く音を探っていくような演奏で、そういう点では一種の神秘さも感じられるが、その息遣いの密な距離感が60年代後半のジャズにおける特徴の一つかもしれない。本作はヒルのピアノと同じくらい、ボビー・ハッチャーソンのヴァイヴもフィーチャーされており、よりクールな趣を強めているか。
難解というより曲展開の複雑さが取っ付きづらくはあるが、各プレイヤーがそれぞれの演奏に呼応して、響き合うアンサンブルからはより人間臭い個性を聞くことが出来る筈だ。その点では以前の時代より、演奏による「対話」が際立つ演奏だとも言える。個性の主張の重なり合いが面白い一枚だ。

アンダーカレント(SHM-CD)

アンダーカレント(SHM-CD)

・62年録音盤。白人ジャズメン二大巨頭のデュオアルバム。余計な楽器を入れずにピアノとギターのみでプレイされる演奏は静謐な面持ちでたおやかかつ穏やかに広がっていく。じっくりと味わうようにエヴァンスもホールもお互いの音を一音一音噛み締めながら、紡いでいく様が目に浮かんでくる。
全体にミディアムテンポのリリカルな演奏が目立つが、その分の空間的なイメージと共に心地よく揺らいでいく音の響きが時を忘れさせる。もちろん鳴り響くのジャズではあるが、二人の演奏にはクラシカルな優美さも加わり、奥行きの深い音が悠然と浮かび上がっては消えていく。じっくりと聞き浸りたい良盤

Wes Montgomery Trio

Wes Montgomery Trio

・59年録音盤。リバーサイドでの第一弾アルバム。通算では三枚目のリーダー作。過去の二枚が故郷インディアナポリスでの録音である事からもニューヨークで本格的な活動を始めたという点ではこれが最初の一枚。ベースレスのオルガントリオでの演奏が聴ける。個性の萌芽は見えるがまだ爆発はしてない印象
とはいえ、ウェスの味わい深いギタープレイはこの時点から健在であり、オクターヴ奏法による丸みを帯びた柔らかな音はすでに個性を確立している感すらあるが、アルバム全体としては熱気を帯びるというよりは穏やかなクールさを感じる内容となっているのが目を引く。
比較的シンプルなトリオ構成である以上、ウェスのギターが目立つのは当然なのだが、個性は感じられながらも、バンドを牽引するような支配力にはまだ弱く、あの辺りに垢抜けなさもやや感じられるだろうか。じっくり聞き込むと味がじわりと滲み出てくるスルメ盤的な佳作。シンプルさが返って映える。

My Favorite Things (With Bonus Tracks)

My Favorite Things (With Bonus Tracks)

  • アーティスト:Coltrane, John
  • 発売日: 2010/12/16
  • メディア: CD
・60年録音盤。コルトレーンの代名詞の一つとも言える「My Favorite Things」を収録した作品。マイルス・デイヴィスのバンドを脱退した直後に吹き込まれたセッションから生まれた一枚でありバンドリーダーとしての船出的な作品でもあるか。ソプラノサックスがジャズの楽器として注目されるのも本作から
演奏そのものはモード・ジャズらしいプレイで、ソロでのミニマルな展開を見せるメロディの変化やブルージーな趣や熱っぽさを廃したクールなタッチは同時代のチック・コリアや初期のハービー・ハンコックなどと呼応するプレイスタイルだと思う。またソプラノサックスの伸びやかな高音がやはり印象的だ。
ただ「My Favorite Things」のインパクトがあまりにも強いために他の収録曲の印象が薄いのが否めないところではあるか。とはいえバンド・メンバーにマッコイ・タイナーエルヴィン・ジョーンズに揃えているのもあり、当時のジャズらしい切れのいい演奏が聴ける。その意味ではヒット曲に恵まれた佳作か

OPEN SESAME

OPEN SESAME

・60年録音盤。初リーダー作にしてBNデビュー作。同時に代表作のひとつでもある。内容もフレッシュな魅力に溢れたハード・バップな演奏が目を引く。伸びやかに突き抜けるトランペットのハイノートフレーズが印象的だ。青々とした若草の風に乗るかのような勢いと爽やかさを感じる。
そのハバードの相手を務めるのが、隠れたジャズの名手、ティナ・ブルックスの味わい深いテナーだ。独特の哀愁を帯びたブルージーな音色はハバードと対照的でもあり、演奏のコントラストが際立つ。どちらも歌心を感じるブロウなのもあって、非常にメロディアスな印象を強く受ける。
ハバードは当時若干22歳。そのプレイは非常に若々しく勢いに満ちた、活気あふれるものでどんな音にも溌剌さが垣間見える。この力強さはクリフォード・ブラウンのスタイルが色濃く影響されている部分だろう。ブラウンのスタイルを受け継いだ新世代ジャズトランペッターの門出としてはこの上ない一作。

Empyrean Isles

Empyrean Isles

・64年録音盤。サンプリングソースとしても有名な「Cantaloupe Island」が収録された作品。モード・ジャズの様式にフリージャズが徐々に取り込まれていく過程が見て取れるような内容になっており、新主流派の飽和点を見定めているような印象も受ける。その点では境界線が曖昧になっているとも。
一番モードらしい演奏がポップな「Cantaloupe Island」である事からも、次なる一歩を模索する楽曲という趣が強く、演奏面においてはフレディ・ハバードのトランペットとトニー・ウィリアムスのドラムが極めて鮮烈で、リーダーであるハービー・ハンコックが霞みがちではあるが存在感は出している。
特筆すべきはラストの「The Egg」だろうか。演奏が渾然一体となる中で、テーマが表出してくる演奏はそのまま数年後のエレクトリック・マイルスへ直結する雛形的なプレイのように思う。そういった新たな潮流が芽吹くドキュメントとしても興味深い、過渡期の録音だ。見逃せない重要作。

フューシャ・スイング・ソング

フューシャ・スイング・ソング

・64年録音盤。初リーダー作。ほんの一時期ではあるがマイルス・バンドに在籍していたこともあるサックスプレーヤーがそのメンバーと吹き込んだ一枚。後にフリージャズに傾倒する人物だが本作はバップとモードとフリーがぎりぎりの位置でせめぎあったような演奏が繰り広げられている。
勢いと熱気はバップそのもの、緊張感とロジカルな演奏はモード、その二つから綻びる曲展開の自由さはフリーだ。当時、ジャズシーンで流れていた大きな三つの潮流の臨界点が重なり合って成立したといっても過言ではない、歴史の特異点的な趣すらある。同時にこの時期だからこそ出来た演奏だろう。
力強くブロウするテナーもさることながら、ここでもトニー・ウィリアムスの八面六臂な大活躍がやはり目立つ。一歩間違えばフリーの要素が悪目立ちしそうだが、有無を言わせない若々しいパッションを感じる。同時に負けず劣らずサックスがパワフルな音で迎え撃つ様子が非常に印象深い。隠れた良作だ。