音楽鑑賞履歴(2017年7月) No.1112〜1125

月一恒例の音楽鑑賞履歴。
14枚。
先月から継続して映画を週一で見続けているので、その分CD聞く時間が削られてる感じですね。
まあ致し方ないとはいえ。
月の前半は日本特集、後半はイタリアンプログレ特集です。綺麗に分かれた感じ。
これを書いてる時点では、抜けの悪い天気が続いてて、梅雨明けしたんだかよくわからない感じ。
ここの所、夏らしい太陽の照りつけるような暑い一日に出会う回数が少ないですね。
もう少しすれば、夏らしくなるんでしょうか。
8月に入るとイベントやお盆もあるので、周囲は慌しくなりそうですが、まあマイペースに行きたいと思います。
というわけで以下より感想です。



アウトレイジ

アウトレイジ

・09年発表10th。12年振りの4人体制復帰作。そしてバンドの原点であるスラッシュメタルに回帰した作品。のっけからフルスロットルのスラッシュチューンでその復活を高らかに宣言しているし、復帰したVoの橋本直樹が10年近く業界から離れていたと思えないパワフルな歌声を披露している。
一方、橋本のいなかった10年もの間、コンスタントに活動を続けていた演奏陣の実力も年月の分、研ぎ澄まされており、その強靭かつマッシヴなサウンドは海外のスラッシュメタルにも引けを取らないものだろう、ファストナンバーだけでなく緩急をつけたサウンドは脂が乗り切っていることが窺える。
一口にスラッシュといってもバンドサウンドの変遷もあったように、様々な要素が溶け込んだ上でのものであり、オルタナやハードロックやハードコア的な趣も感じられる。そういった含蓄の深さがバンドを熟成させ、その結晶が本作だといえるだろう。名実ともに第二の出発点となった名作アルバムだ。

ジェットジェネレーション

ジェットジェネレーション

99年発表5th。世界を股に駆けて活躍する和製ガレージロックバンドのメジャー第二弾。端的にモーターヘッド×ラモーンズ÷MC5なガレージサウンドだが、何よりも驚異的なのは鳴り響く轟音ギターと演奏に込められた凄まじいほどの熱量だ。ほとんどの作品が一斉録りの一発録音だからこその音だろう
その一発勝負ゆえの緊張感と爆発力、あるいはライヴ感の生々しい衝動を収めようとしているし、そういったロックンロールから発せられるエネルギーを常にぶち込み続けているのが彼らの信念だろうし、矜持なのだと感じられる。ロックの魔力的快楽でぶっ飛びたいのなら格好の作品。油断すると火傷する。

ZAZEN BOYS4

ZAZEN BOYS4

・08年発表4th。前哨戦のシングルを経て、本作から本格的にシンセサイザーが導入され、ポストパンクからボディミュージックやらエレクトロファンクに移行したような、洗練されたサウンドに変化している。その背後にはプリンスがいたり、マイルスがいたり、とそんな気分にさせる奥行きの深さがある
一方でポストパンクっぽい無機質さも残っており、ファンクらしい弾力に富みながらも、芯や根っこは非常に硬質な雰囲気を漂わせている。全体的にはダンスグルーヴを強調しているような作りで、不安を携えながらも踊らにゃあかん切なさや寂寥感が同時に腹と腰に響いてくる。狂いながらも醒めている感覚。
その醒めた感覚で方向を定めながら、都会を生きる、険しさやギリギリな感覚が滲み出てくるのがこのバンド、というより向井秀徳の鋭さのような気がする。そういう点ではナンバガから地続きだし、より個性が剥き出しになって研ぎ澄まされている音だと思う。盤を重ねる度にその確度を上げている。良作。

LIVE!!

LIVE!!

00年発表ライヴ盤。国内外各所で行われたライヴ音源のベストアクトを取りまとめた一枚。かのNY、CBGBsでの音源も収録されている。スタジオ録音でもライヴでも彼らのやることはあまり変わらず、爆音ガレージロックが鳴り響いている。熱気と勢いではこちらに軍配が上がるか。
ブルースやカバー曲も織り交ぜながら、ライヴならではのドライヴ感が伝わってくる内容で、ミスタッチや弦が切れてもお構いなく、その場の熱気が押し通すエネルギッシュなパフォーマンスが聞ける。音圧でいえば、スタジオ録音には及ばないが演奏に全力投球する完全燃焼スタイルが魅力的な一枚だ。

Synchronized Singing

Synchronized Singing

05年発表2nd。R&B調のオーガニックサウンドから、エレクトロサウンドに比重を寄せた一枚。エレクトロに比重は置きつつも、エスニックやスパニッシュなどなどジャンルにとらわれない音楽を繰り広げている印象。抑揚をあまりつけないというか、わりとオフビートな歌声で鳴らすのが特徴だろうか。
後の作品でシティポップ路線へとシフトしていくように、エレクトロのクリアなトーンも相俟って、かなり洗練された音に聞こえる。その一方でASA-CHANGをフィーチャリングアーティストに引っ張ってくる抜け目の無さみたいのも感じられて、一筋縄ではいかない作り。
音の方もフロア仕様というよりは、彼女のパフォーマンスに注力している分、音楽性は高いように思う。前作の重苦しさはなく、どちらかといえば羽が舞い上がるような軽やかさと天を突き抜けるがごとき透き通った雰囲気に支配されている。より独自色を高めたという点では野心的かつ洗練された一枚かと。

Sunshine

Sunshine

09年発表5th。AORやライトメロウなフュージョンサウンドをバッキバキのエレクトロサウンドでコーティングした、爽快感溢れる一枚。クラブハウスの密室感など、どこ吹く風で太陽が照り付ける、澄み渡った青空が広がったビーチサイドで聞きたくなるような開放感が気持ちいい。歯切れのいい音。
昨今、80年代やバブル期のサウンドリバイバルしているが、10年近く前に先駆けて提示しているのに驚く。80sサウンドを汲み取り、EDMに再構成しているその手腕と視点の鋭さは顧みられてもいいと思う。ダークな趣が一切なくブライトサイドな音はとても眩しく輝かしい。
文字通り「サンシャイン」なサウンドはとてもポップで懐かしくも新しい響きを伴っている。元々開放感の強いビートとサウンドを提示していた感があるがそこへ煌びやかさやスタイリッシュさも加わり、より洗練された向きを感じる傑作だ。日本人という枠組みを軽々と超えたスケールの大きさが凄い。

卓球道

卓球道

03年発表1st。コナミ音ゲーBEMANIシリーズ界隈で活躍するシンガーの初作。知ってる人はアニメ「ボンバーマンジェッターズ」の主題歌を歌ってる人と言えば分かり易いかもしれない。収録曲はpop'n music等の提供曲がメイン。スタイリッシュとは無縁の暑苦しいサウンドが面白い
このアルバムはすわひでお自身が作詞した、ペーソスあふれる日常感をコミカルに描いたものとなっており、実体験や駄洒落や下ネタなどを駆使したクレバーに見えないがかなり知的に構築された歌詞が特色であり、アルバム全体を支配する持ち味となっている。笑わせて面白がらせるエンタメ気質を強く感じる
そこにgood-coolこと、古川竜也の手がけるファンキーかつホットでサイバーな楽曲が絡み合い、曲自体もカッコいいが歌詞の情けなさや絶妙さがマッチングして、独特な雰囲気を作り上げている。面白ければパンツ一丁で何でもするような気概の高さも感じられる、なかなか侮れない良作かと。

Signalize!/カレンダーガール

Signalize!/カレンダーガール

12年発表1stSG。TVアニメシリーズ「アイカツ!」の第1期OP&ED曲シングル。作曲はそれぞれ、OPをCoalter Of The Deepersで知られるNARASAKI、EDをMONACA田中秀和が担当。作品の華やかなノリを彩る楽曲となっている。
前者は昨今の流行であるEDM調のエレクトロポップ、後者は80sフレーバーの強いファンキーなダンサブルナンバー。特に後者は、シリーズ全体を貫く楽曲として長く使用されるのも相俟って、ファンにとっては特別な一曲だろう。どちらも日本のポップシーンにも呼応したレベルの高い楽曲だ。

Symphonic Suite AKIRA

Symphonic Suite AKIRA

88年発表10th。同年公開の長編アニメーション映画「AKIRA」の劇中曲を収録した作品。OSTもほぼ同内容だが、向こうは本編の台詞が挿入されており、より本編を追体験できる仕様になっているのに対して、こちらは楽曲のみにフォーカスした構成。芸能山城組としての純度はより深まっている。
ケチャやアフリカンビートや読経、ねぷた祭りの掛け声、などあらゆる民俗音楽が有機的にミックスされ、唯一無二の宗教感覚と思想の猥雑なカオスが映画本編の退廃と繁栄が入り混じった未来都市の情景と混ざり合い、強烈なサウンドを提示するゆえに作品との強い結びつきを感じる。
多様的な価値観が同居する感覚には、雑多なアジアンテイストとサイバーパンク的な世紀末感も折り重なり、切っては切り離せない音楽となっている。この驚異的な音塊は言葉を尽くしても足りないほどの存在感と魅力を放っている。色褪せる事のない普遍さを保った名盤だろう。録音もすこぶる良好な一枚。

Forse Le Lucciole Non Si

Forse Le Lucciole Non Si

・77年発表1st。イタロプログレの中でも特にシンフォニックで幻想的な趣の強い名盤の一つ。ツインギター、ツインキーボードを含む7人編成の大所帯バンドで、どちらかと言えば、ジェネシスのようなアンサンブル重視の構築的な演奏を繰り広げる内容となっている。イタリア特有の美的感覚を感じる
聞こえてくるサウンドはとにかく優雅で繊細だ。軽やかにソシアルダンスを踊るような、クラシカルな響きと繰り広げられるファンタジックな音世界は芸術の国と呼ばれる、イタリアのお国柄がよく表れている。邦題の「妖精」というのもアルバムの儚くも優美な印象に起因するものだろうと思われる。
発表後、アルバムは長らくこの一作のみであったが90年代に入って突如再結成の上、新作をリリース、さらに10年代に入って、もう一枚アルバムをリリースしているという不思議な活動履歴だがそんな気ままさもイタリアらしくはあるか。イタロプログレの美メロ路線の名盤として燦然と輝く一枚かと。

Storia Di Un Minuto

Storia Di Un Minuto

・72年発表1st。イタロプログレの代表的バンドのひとつ、PFMの初作。イタリアらしい光と影のコントラストの強い、なおかつ超絶技巧を駆使したアンサンブルが繰り広げられる内容はイタロプログレの特徴を早くも捉えており、垢抜けないながらもその魅力は強く打ち出されている。
本作ではイタリアの牧歌的、あるいは都市部ではなく田園風景が広がっていそうなローカルな地域の趣が見え隠れしており、スタイリッシュさとは無縁な朗らかな雰囲気とクラシカルで厳格な雰囲気が混ざり合って、濃縮されたイタリアの原風景を想起させられる。陽気なメロディにも闇を孕んでいる様な感覚
陽気である一方で、アコースティックになると英米のフォークやトラッドとも違った趣の幻想的な旋律が荘厳に鳴り響く。祝祭の華やかさの裏に潜む、神秘的な闇の魅力とでも言うべきか。先述したそういうコントラストを早くも確立しているのが窺える。垢抜けない面は残るが初手にして傑作といえる一枚だ。

Per Un Amico

Per Un Amico

・72年発表2nd。前作からさらにテクニカル志向になった感のある一枚。それゆえに朗らかな陽気さは若干薄らぎ、シリアスさが加速した。もちろんイタリアの風土を感じさせる、開放的な雰囲気ははあるのだがより厳格さを求めた作りになっている。そういう点では前作の作風を推し進めた格好だ。
もちろん躍動感に満ちた、幻想的かつ優雅な趣も感じるテクニカルな演奏は聴き応えはあるのだが、この時代のプログレが同じ問題を抱えていたように、芸術性が高くなるにつれて、大衆性が失われる傾向があり、その重厚感が若干滲み出してる作品でもあるのは疑いは無いだろう。
インテリジェンスとアーティスティックさを求めるがゆえの頭でっかちが引き起こす弊害だがこのバンドが助かっているのは、その軽やかに感じるメロディであり、音楽的感性、フィーリングに因るところがあるように思う。作品の出来は傑作なのは間違いないが、そういう理由から聞き返す頻度は低い一枚。

Photos of Ghosts

Photos of Ghosts

・73年発表3rd。キング・クリムゾンの作詞担当メンバーだった、ピート・シンフィールドに見出されてマンティコアからリリースされた世界デビュー盤。先に出ていた1stと2nd収録曲の再録版にシンフィールドが新たに英語詞を書き下ろし、インストの新曲を追加した内容となっている。
再録された曲は録音と音の重ね方はいいものの、初出バージョンの鮮烈さと演奏のキレにはやはり少し劣ってしまう印象。テンポを落としている曲もあって、オリジナルを容易に聞ける現在においては、アルバムの締りのなさをどうしても感じてしまう。演奏もパッションより理性が勝ってしまっている。
今となってはこのように、ユーロロックがイギリスのレーベルを通じて世界に紹介されていったという歴史的事実を知る以上に内容にあまり価値がないようにも思えてしまう一枚か。もちろん演奏は相変わらず高度なのでバージョン違いを楽しむ分には聞けるが、存在意義のぼやけてしまった作品だろう。

L' Isola di Niente

L' Isola di Niente

・74年発表4th。全世界への紹介編だった前作を踏まえ、万を辞して発表された彼の代表作。英語盤とイタリア語盤が存在していて、ジャケットが青いのが英語、緑なのがイタリア語盤。今回はイタリア語盤の紹介。なお英語盤は1st収録曲のリメイクを収録しているので1曲多い6曲となっている。
世界デビューを果たしたのが良い影響になっているのか、これまでの盤と比べても音のスケールが大きくなり、壮大になったのとイタリアらしい朴訥さが垢抜けて、古代ローマ彫刻やルネッサンス芸術を思い起こすような力強さと美しさを併せ持ったテクニカルな演奏が鳴り響く。
「作品」と呼ぶに相応しいだけの高い演奏技術と表現力が高い次元で実現した一枚であり、地中海に吹く抜けの良い風と燦々と輝く太陽の作る光と影の叙情性が湿度の高い英国プログレと比しても遜色ない所か、軽やかさと心地良さを感じる名盤だろう。PFMというバンドを知る初手としてもまさしく最適手だ