極上同窓会#08

アニメ『極上生徒会』、勝手に10周年企画。
10年前の放映日に合わせて、1話ずつ振り返ってます。
今回は第8話。

脚本:黒田洋介/絵コンテ・演出:鈴木洋平/作画監督:佐藤道雄/総作画監督下谷智之


定期テスト回。
コメディタッチな流れから孤独になるという不安に駆られる回。
この作品、結構ふとした事から物語のスイッチが切り替わる特徴がありまして。
今回もそれが顕著ですね。
極上生徒会役員ならば、それ相応の成績を残さなければならない
そうでないと除名されてしまうっていうルールの下に物語は進行します。
というわけで、今回のピックアップキャラはこちら。

満を持して(?)、蘭堂りの(CV:田村ゆかり)。
主役キャラにようやくスポットが当たります。
というより、ここまでの話が結構アイドリングになってて、
ココで始めて、りのが掘り下げられるっていう流れに見えますね。
その辺りを眺めていきたいと思います。

冒頭いきなり薔薇フレームが入る辺り、ウテナをやったJ.C.STAFFらしさがありますねw
そこから始まるりのと奏会長の楽しいルームメイト生活は華やかそうに見えるけど、地味だなあ。
リリアンこっくりさん、商店街ショッピング、箸が転げ落ちて笑うと。
どれをとっても地味すぎるおかげで薔薇フレームとのギャップでシュールさがあります。

とまあ、楽しい学校生活を満喫しているわけですが、お決まりの如く。
夏休み前の定期テストが押し迫ってきていて案の定、りのの成績が問題視される。

やった、仲間がいた!とかそういうお話ではなくw
いつも赤点スレスレな先輩陣と一緒に生徒会メンバーによる集中勉強することに。
どうでもいいけど、久遠が怖い。
ちなみに下段右は予告段階だと色がついてませんでした。

↑の画像をまとめた時にこの作品が10年前の作品だなと改めて認識するなど。
当時はまだ「ゆとり教育」という言葉にまだ夢(?)があったんだなあとか。
まあ、れいんの勉強を逃れる抗弁にすぎないんですけどもね。
そこまでまだ「悪い意味」で使われてはない時代だったんだなと思います。
言い忘れましたが、今回の画像引用は時系列にあまり沿っていませんのでご了承を。

そんなこんなでうまい事言い包められて、先輩二人は試験勉強がいい方向に向かっていくのに対して、りのは。
なかなか事が上手く運ばない。
上記の画像まとめはBパート冒頭ですが、すでにドラマのスイッチが切り替わっているんですよね。
中段下の画像は今回のりのを支配する感情がふっと出ているところ。
りのにフォーカスして見ていくと、深刻そうなドラマが展開されていきます。

その流れで見ていくとこの通り、りのだけ努力が実らない。
いたって本人は真面目に取り組んでいるはずなのに、結果に繋がらない。
画像ではそんなドラマのコミカルさとシリアスさの切り替わりがよく表れています。
成績が悪い、あるいはおバカな面が強調されているとコメディっぽいんですが、
それを克服しようとして積み重ならない描写が加わると感情が沈んでいきます。
この辺り、進行のさじ加減が絶妙なんだろうと思います。

その後も努力しても努力しても、上手くいかない。
勉強を教えている奈々穂たちが自分たちの試験勉強放棄(それもどうかと思うがw)してまで、
付き合っているというのにどうにもならず徒労感が溢れるミーティング。
…一応ギャグ描写だと思いますw

ここで久遠が隠密を使ってのカンニング行為を図ろうとしますが、奈々穂に止められます。
手段を選ばない久遠のクールさが滲み出ますが、そこが温度差になってぶつかっている。
後の久遠側の布石でもあるんですが、少し違和感の残るやり取り。
どことなく影が残る久遠の表情が印象的ではあります。


さて。
りのの方に視点を戻します。
その前に、今回のエピソードで目を引くところを紹介してから進みましょう。
二つあります。

香のこのシーン。
こっそりりのと奏会長がやりとりしているのをぐぬぬしている場面。
1フレームに別の動作をするキャラを盛り込む、質量のあるシーンだけど、
香のおさらい的な意味合いもあるんじゃないかと。

続けて、プッチャンとのやりとり。
りの本人が勉強しないといけないから香が面倒見ることに。
なのだけどプッチャンとも仲が悪くて、四苦八苦してる。
こっちもメインの話題を進行させているのは先輩三人で香は別動作。
コメディリリーフ的な可愛さも確かにあるけど、この後の前振りでもある。


この二つを踏まえて、りのと香がフォーカスされているのが
エピソードのハイライトだと感じています。


この二つの画像まとめのりのと香が個人的には素晴らしい。
なかなか勉強が捗らず、先の不安ばかりが先立ってしまうりの。
それで注視して見守る香。
今回の話、特にりのの内面についてはここまで誰も理解が及んでなかった。
この場面でりのは堰を切ったように内面が零れていくわけだけど、香はそれをただ一人目撃している。
りのの涙の意味を汲み取って、部屋をそっと出て行くまでしているのが凄いなあと。
香の表情の微妙な変化も面白い。
もっと言えば、りのと香の位置関係も興味深いんですよね。
香はりのの背に立っていて、画面に表立っているのはりの。
横から見ると並列なのに、縦から見るとりのの後ろ。
先にあげた画像まとめで描かれているように、脇で何かしら行動を起こしているのが今回の香です。


そして同じように、りのがああなってしまう原因を裏で探る香。
4話で見せた察しの良さがここでも発揮されていて、りのの精神的不安の根源を突き止める。
奏会長もりのにあった事実を知ることの出来る人物として、この位置に。
つまりは母の死によって、孤独になることにトラウマを抱えていて、
逆戻りしてしまう不安に駆られるほどに今の生活を楽しんでいる。
と、りのの心をプッチャンが懐述。


それを聞いて、どこか同情と懐かしむ表情を滲ませる香。
根拠が「りのがいなくなると奏会長が悲しむ」と捻くれているけど、
きちんとりのを思いやっているのが個人的にはぐっと来るなあ。
りのとは正反対のキャラだからこそ、肝心な根っこの部分を理解しえている。
その感覚がやっぱり素敵。
とはいえ、表立ってりのの為に働くことはしない。
そういったところで奏会長と香の数少ない会話が映えるし、
香の提案の為の配置で奏会長がいたという構造になっていますね。


りのの問題が精神的な問題であるならば、それをケアするのが一番の方策。
メンタルの弱さをみんながフォローすることで補う。
当たり前とはいえ、なかなか難しいのが正直あると思うが。
基本的にアニメは都合の良い世界で構成されているので、これでいいのです。
ところでこのサプライズパーティーを提案したであろう張本人がいないのも、
今回の役割を考えると至極納得でもありますね。

それで結果がコレなんだから、結果オーライでしょう。
これでりののエピソードは一件落着。
つくづく、りのと香の関係は一筋縄ではないと思います。
作品で描かれる人間関係においても、ものすごく対称的で。
人コマシな一面があって、孤独に耐えられないりの。
人間関係には一定の距離感を持っていて、孤独との付き合い方を知っている香。
これが奏会長との関係にも表れているんですよね。
りのは目に見える関係性を求めるのに対して、
香は関係性を胸に秘める。
だから香が奏会長と会話するのもいざという時にしかないわけなんですね。

そんなりのと奏会長の関係がクローズアップされたことで、
りのの正体と久遠の正体の謎が次の布石として打たれている。
久遠の複線はココまでのエピソードでちょいちょい触れられていますね。
ココも微妙な表情の変化だけど、注目しておきたい箇所。

最後に香の種明かし。
歩との会話後、クールに去る香がかっこいい。
りのの境遇と心境を察してやれたのは、香自身が一度通った道だったから。
これも先のエピソードで端々描かれていましたが、
りのと香が環境が似通っていていて、差は支えるべき存在の有無くらいなもの。
りのは天涯孤独の身で、香は下に弟と妹がいた。
だからこそ、香は子供じゃいられないって思いもあるのかなとも。
独りじゃない分、メンタルは強くなったんだろうなと思わせる描写です。
彼女の一面を描写することでエピソードの締めになるわけですから、
やはりりのと同格で表裏一体の存在なんでしょうね。
物語的にも作品的にも香の存在が大きいのが確認できて面白いと思います。


りのと香の関係はこの連載でも結構ピックアップしてきました。
やはりりので描けない部分を香が一手に背負っていて、構造的に補完しあっている。
けど、決して仲の良い関係じゃないのがミソで。
こういう関係性もあるのがこの作品の良い所だと思います。
真っ向から分かり合う必要もないし、判り易くもないけど人間関係が面白い。
この機微。
ドラマ的に突き詰めが甘いかもしれないけど、関係性を楽しむ物語としては十分な位かと。
なんにせよ見れば見るほど味わい深いのです。
といったところで、今回はココまで。
それではまた次回。